研究課題/領域番号 |
21K12545
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
森下 あおい 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (10230111)
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研究分担者 |
村上 かおり 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (80229955)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ファッション / デザイン画 / デジタル / データベース / 深層学習 |
研究実績の概要 |
衣服デザインを行う際にデザイン画を描くことは重要なプロセスであり、従来から手描きが多く用いられてきた。その理由として、手描きの自由で感覚的な線を用いることにより、複雑な曲線形態をもつ人の体形や、多様なテキスタイルの特徴が伝えやすいなど、その表現にには、人の感性を率直に反映させやすいと考えられてきた。特に創造的なファッションデザインのためには、デザイナーの美意識を芸術的に表現可能な、手描きのドローイングによって、独自の個性が映し出されてきたと言える。こうした手描きのデザイン画から見出せる抑揚のある線や、断続的に見える線は、線画の表現が如何に多様であるかが観察できる。 一方で、成熟した消費社会において、衣服は量的には満たされているが、個人が満足する衣服デザイン、すなわち、自分の好みに合うものがないという不満が近年、増している。これに関しては、個人対応の衣服が、ボディ作成や型紙作成、素材の選択を主なテーマとして、パーソナル化した服飾製品のシステムづくりが進んできた。しかし個人の感性面の要求を満たす「個人が求めるデザイン」や、システムの中でいかすべき「デザイン画」の研究は未着手である。 そこで、本研究では、デザインの発想やアイデアが表出されるファッションドローイングに着目し、その感性価値の有用性を活かした衣服デザイン創造を支援するために必要な分析を行ない、個人が描画から衣服のデザインを作成できるファッションデザインの支援システムを検討する。今年度は創造的なドローイングにこめられた感性情報をデザイン画から収集して分類、データベース化し、「個人が求めるデザイン」を、衣服生産へと実現させるための調査と分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感性情報を含むデザイン画のデータベースを構築するために、1970年~2020年のファッションデザインコンテストに応募された創造的なドローイングを2300点収集した。そしてスタイル画における表現方法としての「手描き」と「デジタル画」に着目し、手描きのデザイン画からデジタル画に変換する技術を得ることを念頭に、手描きのスタイル画をデジタル画面上でトレースし、複数のペンの種類に描き分け、線そのものの特徴を把握した。さらに、全身が把握できる1178点のデザイン画を対象として、その手描きドローイングについて、描かれた線から人がどのような印象を受けるのかについて、観察実験を行った。そして線画は様々な表情を創り出している抑揚があると考え、それを整理して、デザイン画の印象に及ぼす影響を分析することを目的に、線画の種類を9種類の形容詞に分け、線の特徴が表す印象についての評価実験を行い、数値的な分析を行った。その際には、抑揚のある線画および、抑揚をなくした線画の客観的な抽出方法について検討した。現在までに、18人の観察者による実験結果から、抽出した抑揚のある線画のデータによって数値的に分析を行うためにデータの平均と分散を用いて、線画には観察者によらない印象があることが判明し、それは線画の強弱によって決定づけられることが考察できた。
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今後の研究の推進方策 |
すでに得られた手描きのデザイン画から読み取れる素材やシルエットに関する要素、印象をより適切に把握するために、ドローイングと感性用語との関係をさらに検証し、数値的な分析についても多角度からデータの検証を行う。さらに年代ごとに線の特徴を分析するために抽出した線画のデータについても線画の印象推移を分析し、先行研究で得られているシルエットの推移との相互関係から新たな知見、考察のためにデータの検証を行うことを考える。そして本研究で抽出した手描きドローイングのデータについて、さらにデジタル画へと変換するのにふさわしい手法と表現について検討するとともに、工学的な視点や機械学習の研究手法を取り入れることで、線のスタイルの自動変換について取り組むことが今後の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
被験者が年度内に揃わず、謝金に充てていた予算が次年度に繰り越しが必要になった。
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