研究課題/領域番号 |
21K12546
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
井上 智史 駿河台大学, メディア情報学部, 准教授 (70339547)
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研究分担者 |
安藤 公彦 東京工科大学, 先進教育支援センター, 講師 (00551863)
松永 信介 東京工科大学, メディア学部, 教授 (60318871)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | デザイン教育 / デッサン教育 / 美術教育 / 視線分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、デザインの基礎教育であるデッサンにおいて、熟練者と初学者のモチーフの捉え方とそれに応じた描画過程の差異を視線計測から明らかにし、その分析に基づいた学習コンテンツを開発することを意図している。感覚的な訓練で習得する能力とされている観察力・デッサン力について、デジタル環境が前提である今日に適合した感性に依拠しない教育法の考案を目的としている。研究は、以下の3つの段階からなる。 1. 視線計測グラスを用いて熟練者と初学者のデッサン時の視線情報を記録・分析し、両者の特性などを把握する。 2. タブレットPCやデジタルカメラを用いて熟練者と初学者のデッサン時の描画過程を記録・分析し、両者の描画手順や描写量などの差を明らかにする。 3. 1と2を比較・分析した結果に基づき学習コンテンツを設計・開発し、スマートグラスやタブレットPCを用いて学習者に提供する。 2022年度は、まず、上記の2に関してタブレットPCなどのデジタルデバイスを用いて、鉛筆と紙だけではなく熟練者と初学者の描画過程の記録および視線の計測を行なった。また、タブレットPCと鉛筆を用いた場合の双方でモチーフにディスプレイを併置した状態で描画過程を確認するなど、デッサン教育にデジタル環境を利用するための方法を試みた。複数の初学者における視線や描画などの傾向把握から、初学者個々の観察時間と描画水準との関連やその内実(見ていないから描けないのか、見ていても描けないのかの差異など)について研究を進めることができたと考えている。また、同一の初学者による計測・記録を昨年度に引き続き継続的に観察することができた。 その上で、上記3の学習コンテンツに関して基本的な学習用教材や視線特性の分析結果を踏まえた実習用教材の設計を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究計画は、熟練者と初学者の記録・分析を行なうこととそれに基づいた学習コンテンツの設計することであった。 被験者数を当初の想定のように確保することができず、描画および視線データの多様な収集という点では予定通りには進んでいない。しかし、タブレットPCなどを用いた記録と計測や被験者個々人への聴取などを丁寧に行なうことができ、初学者の個別の描画水準と観察の状態との関係を把握したり、明暗の認識において学習時に考慮すべき点などについての考察を行なうことができた。また、同一被験者の継続的な記録および分析を進めることができ、技能の上達や停滞の状況と観察の仕方との関連を視線データに基づいて考察する端緒を得ることができている。 研究計画調書の時点で学習コンテンツの主機能として想定していたのは、スマートグラスなどを経由して視線特性に応じた熟練者の学習情報を提供するという機能であったが、その他の機能として、基本的なデッサンのためのガイド機能やタブレットPCと連携した機能を加味するなどコンテンツの設計に着手することができた。また視線の記録や複数の描画方法を試みる中で、当初の研究目的に付随する今後の課題として、デジタルデバイスの利用やデジタル環境が前提としたデッサン力とは何かを改めて問う端緒を得ることができていると考えている。 以上のことから、現在までの進捗状況としては総じて順調に遂行できていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度となる2023年度は、学習コンテンツを開発し学習者への提供を行なう。現時点では、スマートグラスなどを利用したモチーフのパススルーの映像に対して、観察や構図などデッサンに関する基本的な知識を伝達したり、同明度の箇所やモチーフ部位間のガイドや補助線を提供する学習用教材に加え、熟練者の視線の軌跡や注視時間、注視点などの観察情報を円の大小、色の濃度として可視化して提供する機能や、モチーフと描画状態を併置させ比較する機能などを備えた実習用教材を検討している。開発環境や被験者の特性を考慮し有意義な機能から順次の開発し実施を行なう予定である。また本研究の主旨からは若干飛躍するが今後の展望として、デジタル環境を前提とした造形的な観点からの観察力・デッサン力の再定義も視野に含めた、観察の手段の多様性を促したり空間への意識を涵養し形を評価する機能なども検討することができるのではないかと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の交付額および海外製品の価格などの状況を鑑み、2023年度に計画している学習コンテンツの開発および機器選定のため、2022年度の経費をなるべく抑え次年度への繰り越しとした。2023年度の費用は学習コンテンツの開発や必要な機器および教材実施実験に使用する。
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