研究課題/領域番号 |
21K12565
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
茅原 拓朗 宮城大学, 事業構想学群, 教授 (00345026)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 物語認知 / 映画 / サウンドトラック / 説話機能 / 視線計測 / 質的研究法 |
研究実績の概要 |
本研究では、映画等の映像表現の物語認知・理解に対して音が果たしている役割(説話機能)について、質的研究手法(観察等)と生理(視線)計測を含む実験的手法の両面から包括的な理解を目指すことを目的としている。研究期間2年目にあたる令和4年度では、初年度令和3年の成果を受けて、半実験的アプローチによる検討をさらに深めるとともに、それらをもとにした実験的検討を開始する。 具体的には、実験刺激となる映画作品をさらに広げながら、それらのシーンを実験参加者が視聴する際にサウンドトラックを再生した場合としない場合(無音)の時で、そのシーンに対する参加者の物語理解がどのように変化するかを、参加者が受け止めたストーリーや登場人物の心情等を言語報告させ、質的データ分析アプリケーションを用いて分析を行った。さらに、音が実験参加者(視聴者)の最終的な映像の物語理解(映像体験)にもたらす影響を媒介するひとつの変数として視線を仮定し、先述の半実験的手法で明らかになった音の説話機能の定性的理解をもとに、実際に音が映像視聴時の視線のあり方に影響し、さらにはそのことが物語理解に影響するような因果的な影響関係が認められるかを実験的に検討した。 その結果、作品を広げた場合にも音の映像の物語理解への影響が一定の傾向を持つことがさらに確認された。また、それらの音の影響の定性的理解をもとにAOI(Area of Interest:視線計測の際のターゲット領域)を動的に設計して計測したところ、音の有無によってAOIに対する固視量が有意に異なる(音の有無によってどこをどの程度見るかが変わる)ことが明らかになり、映画の音がその物語理解に影響するとき、視線がなんらかの媒介項として機能していることが実験的に示唆された。これらの成果は査読付き論文として公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度(計画初年度)に計画をやや前倒しして開始した半実験的検討を令和4年度もさらに作品選択の幅を広げて進めることで、音がある場合とない場合での実験参加者の刺激映像の物語理解や登場人物の造形・心情理解に対する影響をさらに一般化できたと同時に、それらの定性的な理解に基づいた視線計測による実験的検討を計画通り開始し、音が映像視聴時の視線のあり方に影響することも明らかにすることができた。以上のことから概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度までに視線計測まで概ね順調に進展しており、ここまでの音の説話機能についての定性的検討と視線計測は作品のジャンル等を広げながら継続しつつ、令和5年度は当初計画どおりGSR測定装置による皮膚電気反射(≒情動反応)も音の効果の生理(客観)指標として取り入れて、音が映像の物語理解に及ぼす影響についてより客観的かつ包括的な理解を目指す。 また、令和5年度は計画上の最終年度にあたるため、年度後半ではここまでの研究成果をとりまとめ、国際会議での公表や論文化の準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に整備する計画であった設備(装着型アイトラッカー)が海外製品であるため、為替(円安)の影響をうけ物品費以外を圧迫したため次年度配分と合わせた次年度での実施に変更せざるを得なかった。また、新型コロナウィルスの影響により活動制限を余儀なくされたことからも旅費や謝金等で未使用が生じた。 当該年度未使用分については特に次年度以降の成果公表と関連批評のために活用する。
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