研究実績の概要 |
本研究の目的は,伝統的なわらべ歌の特徴を定量的に解明し,現代の歌謡との比較から音楽の伝播・変容を実証的に捉えるための新たな視座を構築することである.研究期間全体を通じて,多角的なアプローチを実施し,以下の成果を得た: (1)データ整備と基盤構築:初年度に『日本わらべ歌全集』に収録された全楽曲(全39巻・9,800曲)の前半部分のデータをMusicXML形式に電子化し,地域情報を付与した.地域ごとのわらべ歌の旋律と歌詞の比較分析が可能となった.2年目に,後半部分のデータ整備を完了させ,全楽曲のデータ化を達成した.さらに,採録地域情報を整理し,地理情報システム(GIS)を用いて地域間の相違を可視化するための基盤を構築した. (2)リズム的特徴の定量分析:最終年度に実施した"Quantitative Analysis of Rhythmic Differences in Japanese Folk Songs"では,東京・京都・鹿児島の3地域における民謡のリズム的特徴を定量的に比較した.nPVIなどのリズム変動性指標を用いて分析した結果,特に鹿児島と他の2地域(東京・京都)との間に有意な差が見られた.これらの結果は,地域間の方言のアクセント差異に関する言語学的発見と一致しており,地域ごとのリズムの特性を明らかにした. (3)旋律型の地域差分析:ジャーナル論文として執筆中の「わらべうたの旋律型の地域差の計量的分析」では,わらべうたの旋律を「言葉的な旋律」と「旋律的性格の強い旋律」に分類し,ランダムフォレストを用いて旋律型判別モデルを作成した.結果,東京と京都間では,東京の楽曲がより「言葉的」であり,京都の楽曲がより「旋律的」であることが確認された.さらに,都市部とそれ以外の地域で旋律型の存在傾向に差が見られることが示唆された.
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