研究課題/領域番号 |
21K12615
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研究機関 | 川村学園女子大学 |
研究代表者 |
鵜沼 秀行 川村学園女子大学, 文学部, 教授 (40211081)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 物体知覚 / 表象 / 形 |
研究実績の概要 |
研究代表者によって先行研究を踏まえた問題点が整理され、そのReview が査読論文として刊行された(2022年1月)。その中で、人間の物体知覚が、近年の代表的な人工視覚研究の手法のような画像の表面特徴にとどまらない抽象的な形に表象に基づく実験的な根拠が具体的に検討された。すなわち、人工システムが居所的な画像の情報を抽出し、特に画像のテクスチュアを重視した処理を行い、より広範な空間的文脈情報を利用しないことを示された。これに対して、人間の物体知覚は、テクチュアよりも物体の全体的な形に大きく依存しており、特に要素間の「関係」という抽象的な形の表現による知覚が重要な差異であると考えられた。 さらに、論文執筆の過程で収集された資料において、2次元画像から形成される抽象的な形の表象の構成要素として、定曲率(constant curvature)の輪郭要素が重要な役割を果たしており、これらによって抽象的な表象が構成される可能性が示唆される知見を得た。曲率が一定の輪郭要素は、物体の大きさ、方向、位置などが変化しても、不変の特徴として物体の特徴を表現することが可能と考えられる。すなわち、定曲率の輪郭要素を用いた形の表象モデルが、人間の物体知覚のモデルとして妥当であることが、心理物理的実験において実際に検証可能と考えられる。 要素的・局所的な情報処理と、全体的・大域的処理の関係は、人間の物体知覚と人工システムにおける深層学習が現時点で大きく異なる点である。人間の抽象的な形の知覚は、きわめて頑健な現象であり、また広範な認知活動の基盤である考えられる。今後、学習・記憶という高次の認知活動における抽象的な水準の表象の果たす役割が明らかになれば、人工システムにおける物体知覚の手法にも大きな貢献が期待されることが指摘できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
準備されていた実験プログラムが、今回購入した新しい機器で正確に動作しないことが確認された。特に、本研究の主眼である刺激提示の時間的精度において問題があることが明らかとなった。そのため、新たなプログラム言語を用いて実験プログラムを作成する必要が生じた。一方、実験的に操作する具体的な変数について、新たな知見が得られたため、今後、プログラムの方針を修正することが検討されている。したがって、当初予定されていたスケジュールよりもやや遅れて研究が進行しているが、一方で課題と方法が明確になったため、着実な進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、新たなプログラミング言語を用いた実験プログラムの作成を進める。同時に、新たに得た知見を踏まえて、具体的な実験計画を修正する。具体的には、当初想定された刺激材料の変更を行う。また、これに伴い昨年度の予備的検討で問題となった時間制御の精度に関する問題点の解決をめざす。その後、予備実験の実施とデータの検討を今年度内に行う予定である。この間、実験方法の修正に伴って想定される理論的な問題についての考察を加え、その過程を新たな論文として今年度内にまとめる準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験準備に課題が生じたため、学会発表等を翌年度以降に回したことにより、予定されていた旅費の支出を翌年度とした。
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