研究実績の概要 |
本研究は、物体の位置、方向、大きさなどの変化に対して不変な抽象的知覚表象の形成を取り上げて、その情報処理メカニズムのモデルを提案することを目的とした。最終年度は特に入力が符号化される時間過程と抽象的な表象の形成過程についての心理物理学的研究が取り上げられた。報告書としてまとめられた鵜沼・長谷川(2024)において、入力の符号化時間が180msまでの範囲で、いわゆるゲシュタルト要因に基づいた物体全体の関係を表現する物体表象が形成されることが総括された。この知見は、従来の知見であるBaker & Kellman (2018)や大山(2010)を説明するものであり、さらに知覚的な体制化が視覚情報処理の初期における過渡的な符号化の段階ではなく、その後の抽象的な表象が形成される段階で成立するという新たなモデルを提供するものである。 今年度の研究は、人間の視覚が変化する要素的特徴の集合を超えた、要素間の関係を基礎とする不変で「抽象的(abstract)」な形の表象を形成する過程について、特に情報処理の時間過程に焦点をあてた。抽象的な表象への符号化時間が180msであったことは、知覚的なゲシュタルトが視覚情報貯蔵(VIS )から次の処理段階への移行期に生じていることを示唆している。物体知覚に基づく対象の弁別、分類、学習は、対象が大きさ、位置、方向などで様々に変化する事例が存在するにも関わらず、不変の対象の知覚に基づいて行われると考えられる(鵜沼・長谷川, 2022)。しかしながら、抽象的な形の表象が形成される時間的な情報処理過程について、いわゆる視覚情報貯蔵における処理と「抽象的」な表象の関係は未解明の問題として残されてきた(鵜沼・長谷川, 2022, 2023)。本研究は、抽象的な表象形成といわゆる視覚情報貯蔵における情報の統合的な処理についての具体的なモデルを提案することができた。
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