近年,柔道,サッカー,ラグビーなどのコンタクトスポーツにおける繰り返される軽度外傷性脳損傷,特に脳震盪が危険視されている.脳震盪は意識障害が軽度でありほとんど後遺症を残さずに回復する病態として認識されてきた.しかし,繰り返し受傷すると脳は刺激に対して脆弱,敏感になり,追加される外傷に対する閾値が低下し,外傷が軽度であっても重症頭部外傷後にみられるような記憶力や注意力の低下を引き起こす. 一般的に交通事故やスポーツ事故において頭部を強打すると,頭部の急激な加減速により脳組織に慣性力が働き変形する.脳組織の変形は神経細胞間の情報伝達を担う神経軸索に引張応力を与え,損傷や断裂を引き起こす. 本研究課題では,繰り返し軽度外傷性脳損傷を模した衝撃負荷による軸索損傷の重症化を示し,そのメカニズムを明らかにする.また,重症化した軸索損傷を修復する手法を提案し,そのメカニズムを明らかにする. 軸索損傷の指標として,タウタンパク質のリン酸化を評価した.タウタンパク質は軸索の形態を維持する役割を持ち,過剰にリン酸化すると周囲の神経細胞との情報伝達に障害が発生する.30%,30/sのひずみを1日1回,5日間ラット胎児海馬神経細胞に負荷後,ウェスタンブロッティング法によりリン酸化タウタンパク質の発現量を測定した.その結果,ひずみを負荷しない対照群に対し,5.2倍の発現量であり,軸索損傷の重症化を示した.一方,各ひずみ負荷直後に300 mV/cm,20 Hzの二相性パルス波を15分間印加した結果,リン酸化タウタンパク質の発現量は対照群に対し2.8倍となり,電気刺激がタウタンパク質のリン酸化を抑制することを示した.繰り返しの軽度外傷性脳損傷における軸索損傷の重症化に対する電気刺激の有用性を示し,その修復メカニズムを明らかにした.
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