研究課題
巨大な骨欠損を人工物で再建するためには、深部まで栄養・細胞を供給するための微小血管が必要となる。微小血管を人工物で構築すると血栓形成が問題となるため、まず抗血栓性の微小血管を作成するステップから着手している。ポリウレタンを主成分とするポリマーにジピリダモールを含有させたチューブを作成し、ラット腹部大動脈での血流維持を評価し、HE染色、CD34免疫染色にて血栓形成の評価を行った。ポリウレタン+ジピリダモールの人工血管の血管壁に様々なサイズの気孔を作成することとした。気孔形成剤を使用し、壁内の気孔サイズが20μmのチューブ、40μmのチューブ、80μmのチューブをそれぞれ作成し、ラット腹部大動脈置換術を施行し1週間、4週間で評価観察した。開存テストの結果は1週では全例良好な開存であったが、4週間では20μmの気孔をもつチューブの開存率は80%程度まで低下していた。一方で40μm、80μmの気孔をもつチューブの改善は全例良好であった。このように良好な抗血栓性を示したポリウレタン+ジピリダモール人工血管を、次はラットの大腿骨骨欠損モデルに適用することを考えた。ラット大腿骨に8mm程度の長さの骨欠損を作成し、欠損部に多孔体+人工血管を挿入し術直後から血流を再建することを試みた。しかしながら、ラットの大腿骨(直径3mm程度)のサイズ中に人工血管チューブを挿入する際にキンクが生じ血栓形成されるケースが散見された。このため、複雑な構造での応用にはよりサイズの大きな多孔体+人工血管を作成する必要があり、そのためにはより大きな動物種を用いる必要があると考えられた。
3: やや遅れている
複雑な構造の多孔体+人工血管を使用するため、ラット大腿骨より大きな構造に適用するために、ビーグル犬を使用したモデルへと移行する方針としている。しかしながら、ラットで作成したいた人工血管チューブよりもさらに大きな直径の人工血管チューブが必要となるために、均一なポア構造をもつ人工血管を作成するためのプログラムを調整する必要が出てきた。ジピリダモール含有ポリウレタンと気孔形成剤の比率と、大きな直径のチューブを作成する工程を再度調整してからビーグル犬のin vivo実験へと進むこととした。
ビーグル犬の大腿骨欠損モデルでの評価を進める。大腿骨中央に長さ3cmの骨欠損を作成し、欠損部にポリカプロラクトン+βTCPの多孔体を挿入しポリエーテルエーテルケトンのプレートで大腿骨を固定する。大腿骨の直径は1cm程度であり、その3倍の長さの欠損はcritical-size-defectと考えられ適切なグラフトなしでは癒合に至ることは稀である。多孔体の中央に人工血管ネットワーク(ポリウレタン+ジピリダモール)を挿入し、人工血管の両端を大腿動脈にend-to-endで吻合する。これにより獲得された血流が維持されているかどうか、術後8週で造影検査を行う。また術後8週での骨形成を評価するためCT検査、組織学的評価を行う。下大静脈からマイクロフィルを注入し、多孔体全体を栄養する血管を描出した後で多孔体を含む標本全体を脱灰してからCT検査を行うことで血管の体積のみを評価する。免疫染色を行い人工血管表面のCD34陽性細胞の配列を評価し血管内壁が血管内皮細胞でコーティングされていることを確認する。BMP2存在下での血管新生増加がみられるかを確認する。多孔体+人工血管+BMP2と、多孔体+人工血管で骨量のみならず血管新生量に差が無いかと前述の造影検査を免疫染色結果から検討を行う。大腿動脈を使用することで下肢血流が低下する問題が生じる場合には、superficial epigastric artery(SEA)を使用するモデルを検討する。その場合にはSEAの直径に合うよう人工血管チューブのサイズを調整し、そのサイズでの抗血栓性も併せて評価する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件)
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