研究課題/領域番号 |
21K12633
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
島野 健仁郎 東京都市大学, 理工学部, 教授 (90287475)
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研究分担者 |
小林 千尋 東京都市大学, 理工学部, 講師 (00570699)
氏家 弘 東京都市大学, 理工学部, 教授 (00138869) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 血小板粘着 / 内皮細胞 / アデノシン二リン酸 / トロンビン |
研究実績の概要 |
本研究課題の最終目標は、内皮細胞が無損傷であっても低ずり応力下で起こる血栓形成についての数理モデルを提案することである。そのために、血栓形成速度を決定づける重要な要因の一つである血小板粘着速度がアゴニスト濃度と血流のずり速度に対してどのように変化するか定量的に知る必要がある。そこで、本研究では内皮細胞を底面に播種した微小な流路でブタ全血の潅流を30分間行うことで血小板粘着量の定量的データを取得するべく試みている。アゴニストにはアデノシン二リン酸(ADP)とトロンビンを用いている。実際の動脈内で発生するあらゆる状況に対応するべく、アゴニスト濃度とずり応力の組み合わせを様々に変化させて潅流を行い、データ取得を行っている。 その結果、ADPをアゴニストとして用いた場合については、人体の血管内で起こるであろう条件下でのデータ取得がほぼ終了し、ADP濃度とずり速度を独立変数として血小板粘着数を表わす関数の導出が可能になった。当該関数はずり速度に関する対数関数で表されるなどの新しい知見が得られている。 一方、トロンビンを用いた場合については、ADPを用いた場合と異なる傾向があることが明らかになってきた。ADPを用いたときには、1μMまでその濃度にほぼ比例して血小板粘着数が増加するという顕著な傾向がみられるのに対し、トロンビンでは0.1 unit/mL, 1 unit/mL, 5 unit/mLと濃度を上昇させても血小板粘着数には明らかな増加傾向を見ることができなかった。また、血小板粘着数の絶対値は30分間で400平方μm当たり2,3個でADPを用いた場合と比べて明らかに少ない。トロンビンが血小板を活性化する能力を有しているのは、血小板の形態変化から明らかであるが、粘着能力についての網羅的なモデルを提案するためにはさらに条件を増やしてデータを取得する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度に新型コロナウイルスの感染拡大が原因となり、潅流実験の実施に支障をきたした分については、2022年度に取り戻すことができたため。特にトロンビンをアゴニストとして用いた場合の血小板粘着挙動についてのデータを着実に取得できた。これまでに本研究課題において実施してきた実験についてはデータの整理が進んでおり、2023年度に学会発表や論文発表を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
アデノシン二リン酸(ADP)を用いた実験はほぼ終了しているが、データの正確性に疑義のある一条件について追加実験を行う予定である。また、トロンビンをアゴニストとして用いた場合については、これまでの実験結果から0.1 unit/mLを超えた場合には濃度に関係なく血小板粘着量が一定になるのではないか、との仮説が立てられている。これを検証するために、濃度0.1 unit/mL未満での測定、同一濃度でずり速度を様々に変化させた場合の測定を実施し、血小板粘着量について網羅的な定量的データを取得することを目指す。 合わせて、これまでに得られたデータに基づいた学会発表や論文投稿を積極的に行っていく。また、本研究課題が最終目的とする血栓形成数理モデルの提案については、提携先病院から提供されたステント留置を行った脳動脈瘤の症例を対象としたモデル検証計算を実施していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題実施の初年度にあたる2021年度は、新型コロナウイルス感染の広がりにより、予定していた実験のうち約半分の中止を余儀なくされ、消耗品費やアルバイト費の支出が予定より少なくなった。2022年度は実験をほぼ予定通り実施することができたが、前年度に発生した繰り越し金をすべて支出するには至らなかった。また、2021年度、2022年度に出席を予定していた国内および国際会議の多くが中止またはオンライン開催となり、そのために想定していた旅費を使用しなかった。以上の理由により次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、2023年度に行われる実験に必要な消耗品費とアルバイト費、2023年度に開催される国内および国際会議へ出張旅費および参加登録費に充てる予定である。
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