研究実績の概要 |
本研究では、低ずり速度下で無損傷の内皮細胞に血小板が粘着する現象を定量的に捉えるためにブタ全血を用いたin vitro 実験を研究期間全般を通じて行った。これは内皮細胞を底面に播種した微小な流路でブタ全血の潅流を30分間行い、潅流後に粘着した血小板を走査型電子顕微鏡で撮影してカウントする実験である。特にアゴニスト濃度とずり速度の影響に重点置いて検討を行った。アゴニストにアデノシン二リン酸(ADP)を用いた場合、ADP濃度増加に伴い粘着血小板数は増加し、ずり速度増加に伴い粘着血小板数は減少する、という明確な傾向が観察された。ただし、ADP濃度1.2μMを上限に粘着血小板数は増加しなくなった。また、血小板が粘着可能な限界のずり速度値が37 1/s 付近に存在することが明らかになった。これらの成果より、粘着血小板数をADP濃度とずり速度の関数として表わすモデル式を構築することが可能となった。一方、アゴニストとしてトロンビンを用いた場合は、粘着血小板数が非常に少なく、上述のような明確な傾向も観察されなかった。2023年度はトロンビンのこの特性を再確認するために0.1 unit/mL, 1 unit/mL, 5 unit/mLとトロンビン濃度を種々変更して実験を行ったが、トロンビン濃度の違いにより有意差のあるデータは得られなかった。さらに、ずり速度の変化に対しても有意差が見られないという結果になった。これはトロンボモジュリンによりトロンビンの作用が抑制されたためであると考えられ、血小板が内皮細胞に粘着する現象に対してトロンビンはほとんど寄与しないことが示唆された。
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