研究課題/領域番号 |
21K12636
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研究機関 | 森ノ宮医療大学 |
研究代表者 |
中沢 一雄 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (50198058)
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研究分担者 |
富井 直輝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00803602)
井尻 敬 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (30550347)
稲田 慎 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (50349792)
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (80396259)
高山 健志 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 特任助教 (80614370)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心房細動 / 位相シンギュラリティ / スパイラルリエントリー / コンピュータシミュレーション / 興奮伝播ダイナミクス / 心筋焼灼術 |
研究実績の概要 |
(1)3次元形状のヒト心房モデルを作成し、大規模な電気生理学コンピュータシミュレーションを実施することによって、心不全や脳梗塞の大きな原因となる心房細動の不整脈現象を計算科学的に解析するシステムを構築した。このシステムにおいて、心臓全体の電気的興奮の基本となる洞調律を再現し、さらに心房細動が持続するメカニズムとなる不安定な渦巻型旋回興奮波(スパイラルリエントリー)を発生させて、心房細動の不整脈現象を3次元的に可視化した。不安定な渦巻型旋回興奮波が左右の心房を繰り返し移動する過程(興奮伝播ダイナミクス)を再現し、心房頻拍から心房細動に移行する過程を示すことができた。 (2)臨床の心房細動において、カテーテルの心内電位から心房細動をリアルタイムで映像化するシステムのデータに基づき、非発作性心房細動の持続メカニズムと新たな心筋焼灼術についての考察などを行った。 (3)3次元心臓モデルを用いた大規模なコンピュータシミュレーションによって、突然死の原因となる不整脈のブルガダ症候群を想定した心筋組織における伝導遅延領域が細動を引き起こす過程を可視化した。 (4)心筋の電位変化から振動現象としての位相を定義し、さらに、その位相のばらつきから不整脈の興奮波の伝わり方(興奮伝播ダイナミクス)を理論的に解析する位相分散解析の方法を用いて、位相マッピングの有効性を示した。さらに、心筋焼灼術の手法に対するAI導入の可能性などを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、目標にしていた3次元形状のヒト心房モデルの改良や計算機環境の整備、2次元データから3次元モデルへのマッピングなどは予定通り進められたが、コンピュータシミュレーションによる非発作心房細動の再現が不十分なものとなった。すなわち、初期の発作性心房細動を模倣するコンピュータシミュレーションの結果は得られたものの、長期に持続する非発作性心房細動の再現には至らなかった。作成した3次元形状のヒト心房モデルにおいて、電気生理学特性の組み込みが不十分であると考えている。2次元シート上でのコンピュータシミュレーションから推測するに、おそらく、心房筋細胞モデルの活動電位の調整だけでなく、不均質性の元となる伝導遅延領域の導入が必須になるものと思われる。その他、心筋の線維走向の変化も重要な要素になるかもしれないが、現状の結果では心筋の線維走向の有無で、心房細動の原因となるスパイラルリエントリーの興奮伝播ダイナミクスには大きな違いが見られなかった。結果として、1年目に計画していた複数の心房細動の典型的症例の再現において、研究の進捗はやや遅れた形となった。
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今後の研究の推進方策 |
作成した3次元形状のヒト心房モデルにおいて適正な伝導遅延領域の不均質性の導入を行えば、目標とする非発作心房細動の再現が可能と考えている。当初の計画通り非発作心房細動が再現できれば、心房細動の興奮伝播ダイナミクスの変容を位相シンギュラリティの問題として解析し、理論的な基盤を構築する予定である。具体的には、3次元形状のヒト心房モデルにおいて位相シンギュラリティの位置の分布頻度やMeandering現象の軌跡パターンのデータからダイナミクスの変容についての統計的特徴量を算出する。さらに、位相データのばらつきから位相シンギュラリティを同定する位相分散解析の手法を適用し、厳密性の向上を図る予定である。最終的には、再現した心房細動の複数の典型的症例について計算機上で心筋焼灼を網羅的に行う仮想実験を大規模に実施し、典型的症例毎になるべく最小限の焼灼によって心房細動の停止につながる方法を探索する計画である。さらに、心筋焼灼によって停止できない症例があれば、心筋焼灼術の適応外としての鑑別ができる可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の研究費の執行に関し、やはりコロナ禍によって旅費の執行は全く無いなど、全体としても当初予定していたような計画通りには進められなかった。依然、2022年度もコロナの影響は残るように思われるが、行動規制が緩和されつつあり、学会も対面での実施が増えている。なるべく、対面の学会参加も積極的に図る予定である。 また、心臓の形状モデルの作成や可視化ソフトの改善などに経費をかける予定である。さらに、これまで十分でなかった臨床データの取得や、そのために必要な謝金などを追加する計画である。
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