本研究課題では、24時間以内にホスト血管と結合できる癒着防止膜を開発し、癒着防止を立証することを目的としている。2023年度は最終年度であることから、免疫不全マウスの癒着モデルの開発と癒着モデルへの血管網付3次元腹膜組織(3層疑似腹膜組織)移植による癒着防止効果を検討した。8週齢ヌードマウスを経口麻酔にかけ、マウスの腹部を正中切開後、腸管を露出させ電気メスで焼灼した。次に腹膜を擦過して障害を与えた。その後3層疑似腹膜組織を腸管の障害部位に移植し、移植10分で生着した(n=5)。術後7日目、5例中2例は死亡し、2 例は腸管の焼灼部が上部の腹膜に癒着したスコア5の強い癒着、1例はスコア3のわずかな改善が見られた。今後、モデルと移植部位の検討がさらに必要である。 研究全体の成果として、Transwellを用いて3層疑似腹膜組織の選定方法を提言した。膜間抵抗(TER)により、細胞間接着と細胞シートの上下の立体的な接着を評価することができた。これにより、2層疑似腹膜組織よりも3層疑似腹膜組織で腹膜透析液による障害が軽度であることが示された。また、溶質透過試験による溶質透過係数Kを用いて、膜での物質移動を評価することができた。Kは2層疑似腹膜組織よりも3層疑似腹膜組織で低下した。また、腹膜透析(PD)液による障害により、Kは増加した。これにより、PD患者で生じる溶質透過亢進を模擬できた。遺伝子発現により、細胞間のタイトジャンクション(密着結合)に関与するTJP-1とOccludinと腹膜の肥厚に関与するTGF-β、血管新生に関与するVEGFを評価できた。3層疑似腹膜モデルは、PD液によりTJP-1とOccludinは低下し、TGF-βとVEGFは増加して、生体腹膜と同様の障害時における機序を示した。 生体腹膜に近い3層疑似腹膜組織は、癒着防止効果があることが示唆された。
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