研究課題/領域番号 |
21K12659
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
山崎 陽一 関西学院大学, 工学部, 講師 (90780148)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 触感 / テクスチャ / 生体シミュレーション / マルチスケールモデル |
研究実績の概要 |
テクスチャ触感は、物体表面の凹凸からなる表面テクスチャと指の接触に伴う相互作用の結果、指の皮膚に生じる変形や振動などの物理量から形成される。本研究課題では、この形成過程を表面テクスチャと指の接触に伴う力学的な相互作用のシミュレーションから、相互作用の結果生じた皮膚の変形や振動量といった知覚物理量の統合様式までをマルチスケールモデルとして表すことで、テクスチャ触感の形成メカニズムに関する数理的理解の獲得を目指すものである。2022年度は、2021年度に構築した指と物体の接触シミュレータの妥当性検証と改良に取り組んだ。妥当性検証は指腹モデルとヒトを対象に実施した。モデルを用いた検証では、シミュレータにより精密に再現可能な指腹モデルと物体の接触系を対象にした計測とシミュレーション結果の比較を行い、シミュレータが指腹部全体としての振動的振る舞いを概ね再現できることを確認した。次に、ヒトを対象とした検証では、指の解剖学的構造に基づいた相互作用の特異な性質の有無を確認するための計測実験を行い、この特性をシミュレータにより再現できるかを検討した。計測実験では、13種の布地を上下左右の4方向から撫でた際に指に生じる振動情報及びその際に感じた触感の計測を実施した。その結果、同じ物質を撫でた際に得られる触感が同じであっても撫でる方向により指に生じる振動の性質が異なることが明らかになった。これは知覚物理量の統合様式を考える上で重要な知見であると考えられる。その一方で、シミュレータによる撫で方向に対する異方性の再現では十分できていない。原因としては、指内部の解剖学的構造の再現精度、指と物体の接触状態に関する境界条件の設定などの要因が考えられる。2023年度は前述の要因を検討した上でのシミュレータ改善、知覚物理量の統合様式のモデル化にも取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画において、本年度は接触シミュレータの妥当性検証と改良、マルチスケールモデル構築のための基礎データ収集までを想定していた。本年度のヒトを対象とした検証により、物体を撫でる方向により得られる触感に差異が無い一方で指に生じる振動には異方性があることが分かった。これは知覚物理量の統合様式をモデル化する上で重要な性質であると考えられる。しかし、この特性をシミュレータにより再現する課題が新たに生じ、この改良と検証を次年度の初頭に実施する予定である。この改良に伴い進捗としては部分的な遅延が生じており「やや遅れている。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書に記載したように、2023年度はテクスチャ触感の形成に関するマルチスケールモデルの構築と評価を実施する。まず、2022年度の取り組みで見いだされた指の振動特性の再現を目指し接触シミュ-レータを改良する。次に指に加わる知覚物理量の統合様式のモデル構築のためのデータ収集とマルチスケールモデルの構築を行う。本年度の取り組みにより、シミュレータの改良が必要な要素は絞り込めていると考えられ最終的なモデル構築は予定どおり行える見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大に伴う社会情勢から、2022年度は研究会・国際会議参加に関わる旅費が発生しなかった。また、シミュレータの開発と検証に取り組んだためヒトを対象とした計測実験の実施が遅延している。以上が次年度使用額を生じた理由である。次年度使用額は、当初の使途の通りに目的としたヒトを対象とした実験実施、接触モデルの改良、本年度の研究成果の公表に使用する。
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