研究課題/領域番号 |
21K12677
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
澤畑 博人 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 准教授 (40571774)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 人工視覚 / 網膜刺激 / 光電効果 |
研究実績の概要 |
網膜を電気刺激することで光を知覚させ視覚機能を代替する人工視覚システムのために、本研究では光入力によって駆動・制御することが可能な完全ワイヤレス且つバッテリーフリーの刺激回路を提案している。この回路は、半導体フォトダイオードが受光した際に発生する微弱な電流(~5 uA)によってコンデンサに充電し、光が遮断された際に瞬間的に放電することで大きな振幅の電流パルス(>100 uA)を発生し、刺激電極を介して網膜に与えることで視細胞を刺激して光を知覚させることができる。初年度となる令和3年度は、小型回路の試作と、連続光を点滅光に変換する光学システムの試作を行った。 小型回路の試作では、表面実装部品と小型基板を用い、小型動物(マウス)を用いた実証実験が可能な4×5 mm2のサイズに実装された。特性評価実験を行った結果、点滅光を入力すると神経電極を模擬した負荷抵抗(1 kΩ)に振幅140 uAで半値幅0.46 msの電流パルスが出力された。その後、実際に刺激効果が得られるか検証するために、マウスを用いた動物実験を実施した。マウス大腿部に位置する坐骨神経を刺激した結果、下肢運動が誘発され、神経系への刺激効果が確認された。従って、神経細胞と類似した電位感受性を持つ網膜に対しても同様の刺激効果が与えられると考えられる。 次に、外部から連続的に与えられる光を点滅光に変換するために、液晶シャッターを用いた光学システムを構築した。回路の充放電をスイッチングするために十分な動作速度(Closing time <0.05 ms)を持つ液晶シャッターを用いることで、刺激回路から電流パルスが発生することが確認された。 これらの研究成果は国内学会(2021年度先進的技術シンポジウム)にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で提案する回路は2つのフォトダイオード、コンデンサ、抵抗、接合型FETの5点の素子からなり、表面実装部品を用いた小型回路の試作では素子の配置の工夫により4×5 mm2サイズを実現することができた。また、マウスを用いた動物実験で、実際に刺激効果が得られることを確認することにも成功した。さらに、高速スイッチングに対応した液晶シャッターを用いて連続光を点滅光に変換することで、回路を駆動して刺激に十分な大きさの電流パルスを発生させることにも成功した。以上より、提案する手法が網膜刺激システムとして実際に使用することが可能であることを実証することができたと言える。これらの研究成果は国内学会(2021年度先進的技術シンポジウム)にて発表しており、研究の進捗として順調であると言える。 ただし、液晶シャッターによる入力光の減衰(透過率30%)が問題であることが、実験の過程で明らかとなった。これは、入力光の照度が高い場合にしか回路が駆動できないことを意味し、今後、対策する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
液晶シャッターによる入力光の減衰(透過率30%)が問題であることが、実験の過程で明らかとなった。フォトダイオードに照射される入力光の照度が低くされてしまうため、充電と放電を制御する接合型FETのスイッチングができなくなることが原因と考えられた。これは、入力光の照度が高い場合にしか回路が駆動できないことを意味する。そこで、今後はピンチオフ電圧の小さい接合型FETまたはDepletionモードのMOS-FETを用いることで、低い照度の入力光でも充放電のスイッチングが可能なように改良を加える。 また、回路をさらに小型化するために、ワイヤボンダまたはフリップチップボンダを用いたベアチップ実装を検討する。回路の小型化を実現したのち、多数の回路セルをアレイ状に実装することで映像のパターンを成す刺激を出力可能なように改良を加える。 刺激効果を評価する実験手法として、これまでマウス坐骨神経を対象とした刺激実験を行ってきたが、今後はより実際の用途に近い条件での評価を行うために、ゼブラフィッシュまたはカエルの網膜を刺激する実験を実施し、網膜の細胞内電位計測によって刺激に対する応答の有無を解析する。また、同様の実験をマウスの網膜でも実施し、デバイスの有効性を定量評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
回路製作において、当初は独自仕様の部品を外注して用いる予定であったが、できる限り試行錯誤しながら着実に回路の最適化を進めるために、設計を工夫し汎用部品のみで試作を行うことに変更した。これにより既に購入済みだった部品で回路試作することができ、実証実験にも成功したため、予算を予定通りに使用することがなかった。 次年度の使用計画として、専用部品の外注費用、より詳細なデータ取得を行うための計測器購入費用、魚類・両生類を用いた動物実験設備の導入費用、学会発表のための出張費、学術論文の費用として用いる。
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