検討1ではヒト臨床皮下脂肪サンプルを用いて、ヒトSVFを拍動心筋細胞に分化誘導させる方法の確立を試みた。待機外科手術患者を対象に、手術時に生じた余剰皮下脂肪を採取。コラゲナーゼ処理ならびに遠心分離によりヒトSVFを得た。培養ディッシュにSVFを播種後、第5日目にレンチウイルスベクターを用いて、“心筋誘導遺伝子”MEF2Cを導入し28日後に解析を行った。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、患者からの同意取得が見込みを大きく下回った。実施した数例の検討では、ヒトSVFへのMEF2c単独の導入は、拍動心筋細胞への分化誘導効果を認めなかった。この理由として以下の要因が考えられた。一つ目に、マウスとヒトのSVFの分離培養条件が異なる可能性があり、ヒトSVFの分離培養条件の最適化が必要と考えられた。二つ目に、ドナーが心血管病や生活習慣病を有する高齢者が主体であり、SVFの分化能が低下していた可能性があると思われた。三つ目に、ヒトSVFはマウスと異なり拍動心筋分化誘導に遺伝子が複数個必要である(または異なる)可能性があると考えられた。 検討2ではラット慢性虚血性心不全モデルにおける“心筋分化誘導遺伝子導入”SVF投与の心機能改善効果を明らかにする計画を立案した。当初はαMHC-GFP Tgマウスの皮下脂肪からSVFを採取し「心筋分化誘導遺伝子」を導入する計画であった。予備実験の結果、心筋troponin T依存的にGFPを発現するTgマウスを使用する方針に転換し、遺伝子改変マウスモデルの構築を行った。 上述の通り当初の実験計画を一部変更し、新たにマウスSVFの初代培養における網羅的遺伝子発現の経時的変化の解析を実施した。その結果、拍動心筋細胞分化に関連するMef2c以外のkey遺伝子とタンパクを抽出した。
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