研究課題/領域番号 |
21K12682
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤林 俊介 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (30362502)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 積層造形 / PEEK / 多孔構造 / 炭素繊維 |
研究実績の概要 |
生体活性を持たせることができるPEEKインプラントの表面構造の解明について、今年度の目標を概ね達成することができた。インプラントが生体との間に骨結合力(生体活性)を有するには、表面形状が特に大事であると考えられ、最も適した形状を模索してきた。これまでの研究から、複雑で連通性を持つPorous(海綿状)構造が新生骨に適したingrowth(構造内への骨の侵入)を得ることによって優れた骨結合能を獲得することがわかっている。なかでも、300~1100ミクロン程度のPorous径で優れた実績があることがわかっていた。そのため、われわれは3D-Printerを使用して500ミクロン程度のPorous構造を持ったPEEKインプラントの造形を目指した。初めは我々が使用可能であった、Printer(FUNMAT HT Canon)を用いて造形したが、目指した構造を得ることはできなかった。もとよりわかっていたが、チタンなどの金属ではこのような細かい造形をすることはできても、PEEK等のプラスチックでは融点の低さや粘性の観点からこのような細かい造形をすることが難しいのである。これを可能とするPrinterや技術をもつ企業やグループ、数社との打ち合わせを行い、最終的にベンチャー企業であるヒットリサーチ社からの技術提供を受けることとなった。同社では、我々が目指すような詳細なデザインを造形する技術を持ち、具体的には500ミクロンのPorous構造を持つ、Rectilinear構造のPorous構造を持った実験用インプラントを提供していただいている。同インプラントを用いての予備動物実験を開始している。実験の結果は良好であり、今後は予備実験を発展させた動物実験を行いインプラントの生体活性について実証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記に記載したような、我々が理想とする構造をもったPEEKを造形できる3D-Printerを探すことに半年以上の期間を費やした。その後、動物実験を行うのに最適な形状を求めて造形の調整を行った。2022年11月より日本白色家兎を用いた予備動物実験を開始した。その結果、術後4週時点でPorous構造内への新生骨のingrowthをみとめた。インプラント埋入のために生じた皮質骨の骨欠損を埋め、連続性を再開通させる程度の骨の形成は予想を上回るほどであった。術後8週時点ではさらに骨の形成がみられると同時に、成熟がみられた。作成した組織標本による評価でもPorous内への骨の侵入が観察された。組織の壊死などの、骨組織を含めた生体への毒性などを疑う所見は見られず、部分的に形成された骨とPEEKとの直接的な結合も見られ、電子顕微鏡を用いて界面に対するさらなる考察も必要と考えられる。今後は骨密度についても計測していくが、CT値からは既存骨とほぼ同程度の骨密度を持っていると考えられる。つまり、このインプラントは生体内において、骨の形成に適した環境となっており、インプラントと骨の間に強い結合力を有すると考えられる。具体的な骨結合力についてはまだ測定できていないが、おそらくインプラントとして適用可能な力を得られると予想している。炭素繊維やポチコン(チタン酸カリウムのフィラー)を混入させた、同じ形状を持つPEEKについても1例ずつではあるが動物実験を行っており、同様に良好な結果を得られている。予備実験は問題なく行われたと考えられるため、本実験を開始する方向である。
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今後の研究の推進方策 |
表面構造の解明については予備動物実験を通して予想通り、あるいは予想以上の結果が出たために、今後は生体内における実動物験を体系立てて重ねていきたいと考えている。具体的には日本白色家兎計8匹の左右脛骨16肢に埋入する。埋入半数を4週後、残りの半数を8週後にsacrificeしてインプラント内への骨のingrowthを経時的にCTや作成した組織標本を用いて画像評価する。力学的試験(引きはがし試験)を行うことによって骨との結合力を評価するとともに、画像評価との関連性を考察する。この3D-Printerによって作られるPEEKには、現在主に生体内のインプラントとして使用されているチタン金属にはない長所が主に2点あり、そちらにも介入していきたいと考えている。1つ目はPEEKに材料を混入して、特製を変化させることができる点である。例えばカーボン繊維を埋入させることによって強度を高めたり、ポチコン(チタン酸カリウムのフィラー)を埋入させることにより、強度、耐摩擦性、チタンによる生体活性の強化を得ることができる可能性がある。こちらについても考察し、より生体内インプラントとしてふさわしい材料となる可能性を模索する。2つ目は、レントゲン透過性の性質を持つことである。これによってチタン金属では不可能であった、インプラント表面の骨の形成の過程を細かく知ることができる。インプラントに対する新生骨の形成に対する理解を深めることが、今後のインプラント開発に大きな利点となることが考えられる。
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