本研究は、固形がんの深部に存在しがんの悪性化(転移や再発等)の原因である、幹細胞性・薬剤耐性のがん細胞に対して効果を示す新規抗がん性高分子の開発を目的とした。生体内のHost Defense Peptide(HDP)の物理化学的性質を模倣した膜活性型合成高分子を設計・合成し、特異的な抗がん活性発現する最適な分子構造の同定、および幹細胞性・薬剤耐性がん細胞を含んだ「in vitro固形がんモデル」を用いた有効性の評価を行った。 3年間の研究成果として、①HDPを模倣・改良した分子設計により、がん細胞の細胞膜を選択的(特異的)に破壊する高機能膜活性型高分子の合成と、その構造の最適化、及び、②がんスフェロイドの周囲にがん間質細胞を配したin vitro固形がんモデルの確立を行った。高機能HDP模倣抗がん性高分子の合成・最適化では、カチオン性・中性・疎水性等の様々な側鎖を有する両親媒性ランダムコポリマーを合成し、ヒトがん細胞株およびヒト初代正常培養細胞にを用いた抗がん活性・毒性を評価した。また、ヒトがん細胞株から作製したがんスフェロイドに対する抗がん活性についても検討し、本ポリマーが3次元的な構造を有するがん細胞集合体に対しても効果を示すことを確認した。これらにより、ポリマーに付与する側鎖官能基の選択により、がん細胞選択性に影響を与えることを明らかとした。一方、in vitro固形がんモデルの確立では、がん細胞株から作製したがんスフェロイドと正常線維芽細胞を3次元的に共培養可能なディスク型デバイスを開発し、イメージング技術を組み合わせることで、がん細胞と周辺のがん間質細胞との相互作用をライブ観察可能であることを証明した。さらに、これら2つの技術を組み合わせ、in vitro固形がんモデルを用いて、抗がん性ポリマーのがん細胞・周辺細胞それぞれへの活性について評価を行った。
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