MRIは空間分解能と非侵襲という利点を持つ反面、疾患部位の検出感度が不利な点を有する。本研究ではMRI診断の精度と感度を向上させ、単なる形態診断法として用いるのではなく、病態の機能・代謝イメージングを可能とする新しい高感度MRIナノ造影剤の開発を目指した。24量体のモノマータンパクからなるタンパク質ナノカプセルをMRIナノ造影剤のベースとして様々に機能化し、分子標的により組織・細胞選択性の付与、機能性MRI造影剤の内包、 病態の細胞シグナルに応答したMRIシグナルの増幅を実現する。MRIナノ造影剤によって組織レベルまでしか検出できなかったMRI診断の役割を、細胞から分子レベルの病態を見出す非侵襲の機能イメージングへと発展させた。 まず代謝イメージングに基づいた動的核偏極(dynamic nuclear polarization; DNP)を利用し、膵癌マウスをDNP-MRI撮影することによって膵癌の検出可能であるかをまず確認した。DNP-MRI法は、フリーラジカルの電子スピンをESR遷移させ、電子スピンと核スピンの双極子相互作用により核スピンが偏極する現象(オーバーハウザー効果)を利用しMRIの感度を劇的に上昇させラジカルの情報を得る技術である。DNP-MRIによるラジカル画像は MRIと同等の空間分解能と時間分解能を有し、またニトロキシルラジカルをプローブとした場合、レ ドックス代謝を解析することが可能である。造影剤には一般的なDNP-MRIの造影剤であるニトリキシルラジカルを有するDNP-MRI造影剤3-Carbamoyl PROXYL (CmP) を利用した。KPCマウス尾静脈よりCmPを投与し、膵臓付近の腹部表面にDNP-MRIのコイルを設置し、ベンチトップ型DNP-MRIを用いて撮影を経時的に行った。膵癌組織周辺に優位なCmPのシグナル、さらにニトロキシラジカルの減衰も確認され、膵癌におけるレドックス代謝が観察された。
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