研究課題/領域番号 |
21K12718
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
藤岡 稔大 福岡大学, 薬学部, 教授 (80165357)
|
研究分担者 |
冨田 陵子 福岡大学, 薬学部, 助教 (10580194)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 大うつ病性障害 / 診断 / HPLC分析 |
研究実績の概要 |
大うつ病性障害(Major Depressive Disorder,MDD)の診断には、患者に対するアンケートや問診など患者自身や医師の主観に依存した根拠ではなく、客観的に判断できる指標の確立が求められている。生体内代謝物をバイオマーカーとして利用する場合、臨床現場へ導入しやすい機器で簡単に測定できる測定法と標準プロトコルの構築が重要である。これまでに申請者らの研究チームは、がん細胞培養培地中の約20種アミノ酸濃度についてトータルバランスの変動に基づく総合的指標を作成し、細胞の状態を評価する手法「アミノ酸メタボロミクス」を開発した。本研究では本法を応用し、アミノ酸を含む生体内代謝物濃度のトータルバランスの変動解析をもとに新しいMDD診断技術の整備を目的としている。今年度は、まずMDD患者の血中アミノ酸(26種)についてLC-蛍光分析を行い、得られたアミノ酸情報について統計解析ソフトウェアにて解析した。その結果、MDD患者と健常者の血中アミノ酸バランスは異なっていることが確認された。そこで、検出された25種アミノ酸のうち、いくつかのアミノ酸情報を用いて線形判別分析による予測モデル式の作成を試みたところ、両群を判別できる予測モデルが得られた。入手できた臨床検体数が少なく、クロスバリデーションによる過学習などについては評価できていないが、血中アミノ酸バランスに基づくMDD診断は可能であることが示唆された。また、有力なバイオマーカー候補である血中エタノールアミンリン酸(PEA)測定法の開発にも着手しており、蛍光誘導体試薬として6-Aminoquinolyl-Nhydroxysuccinimidyl carbamate;AQCを用いたHPLC分析法を構築し、MDD患者試料にも適用できることを明らかにした。今後もその他の誘導体化試薬を用いて比較検討を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、入手できた臨床検体(血漿)に含まれるアミノ酸の測定は概ね終了している。MDD患者と健常者の血中アミノ酸バランスは異なっており、いくつかのアミノ酸情報を用いた線形判別分析による予測モデル式の作成を試みたところ、両群を判別できる予測モデルが得られた。本モデルの診断への応用については更なる検証が必要ではあるものの、血中アミノ酸バランスに基づくMDD診断の有用性が示唆される結果が得られている。また、PEAの蛍光誘導体化-HPLC分析法を構築し、入手できた臨床検体(血漿)の測定は概ね終了している。実臨床への導入が容易で、簡便かつ迅速、高感度な新しい測定法を目指し、その他の誘導体化試薬を用いた分析法の開発に着手している段階である。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、入手できた臨床検体のアミノ酸やPEAの測定を行う。さらに、生体内低分子化合物のプロファイルに基づく統計的なMDD診断指標を作成するための次の段階として、他の代謝物(カテコールアミン関連代謝物など)の測定に向けた準備を進める。得られた代謝物濃度情報はアミノ酸情報と組み合わせて解析し、予測モデルを構成する代謝物の種類や数が診断性能に及ぼす影響など取得したデータの取り扱いや解析手法についても詳細に検証していく。 また、AQC以外の蛍光誘導体化試薬を用いたPEA測定法の開発も並行して行い、実用的な分析法の開発を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
最新の知見・技術に関する情報収集のため学会参加を予定していたが、ほとんどがオンライン開催であったため旅費が不要であった。また、研究成果として論文投稿準備が今年度末までに完了しなかったため、英語論文の校閲費が不要であった。 代謝物の分析に必要な代謝物分析用試薬、HPLC分析用溶媒、分析のためのプラスチック製品(チューブ・バイアル・チップ等)の購入費、学会参加のための旅費、英語論文の校閲費として使用する予定である。
|