研究課題/領域番号 |
21K12729
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
坂本 憲児 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (10379290)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | microTAS / microPADs / 血液物性値測定 / 紙媒体検査チップ / PaperMEMS |
研究実績の概要 |
本年度の研究では微量サンプルの測定をするために、紙媒体上で行う定量抽出(定量サンプル分離)の研究を行った。 紙媒体の選定を行ったのち、候補となった紙媒体(ろ紙)に対してエンボス加工を行った。 エンボス加工の鋳型はステンレスエッチングで作製した幅1mmサイズの物と、フォトリソグラフィ工程と深堀エッチングで作製した100μm、50μmサイズの計3種類を用意して実験を行った。高圧プレス機の各種条件で実験を行い、プレス面上部温度、下部温度、プレス圧力、プレス時間の最適条件を調査した。この結果、幅1mmサイズの流路形状をろ紙媒体上へ形状転写することが可能になった。幅100μm、50μmサイズの深堀エッチングで作製した鋳型の形状も、ろ紙に転写することは可能であったが、その鋳型深さ(転写時の構造物高さ)が小さく実用性の低いものになった。この点は、次年度にも継続調査の予定である。 この高圧プレスを行った形状変化のみでの吸水量制限は不可能であったため、薬品処理を加えることによる撥水加工を行った。、各種撥水薬品による実験を行い、撥水剤の選定と、撥水材のコーティング手法の条件出しを行った。これらの実施により、約5μL程度の吸水量制限を実施できた。5μL以下の調査には、幅100μm、50μmサイズの鋳型の深さ調整が必要であり、今後の継続調査の対象である。 また、ろ紙上の電極形成の予備検討を行った。スパッタ成膜、蒸着法成膜、導電性塗料コーティング、めっき手法などを調査・実施した。さらに上記エンボス加工+吸水量制限+電極形成の試験サンプルを作製した。これにより、予備検証として、電気伝導率測定が実施できることを確認した。 また電気伝導率の測定手法の検討を行い、樹脂で作製した同等のチップを用いた測定手法の研究を行った。本内容は電気学会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
紙媒体上に流路幅1mm(吸水量約5μL程度)の吸水領域の作製に成功した。最終目標の極微量(約1μL)に関しては、継続調査が必要であるが、流路幅・深さの調整で達成できる見込みであり、初期の目標「定量サンプルの分離」は達成できた。 要素技術のエンボス加工に関しては、形状転写を正確に実施できている。SEM観察、顕微鏡観察でその形状を確認しており、ミクロサイズではあるが、触診により確認できるサイズの凸形状に加工することができた。また複雑な形状でも実施が可能な事を確認しており、今後様々な形状に応用できることも調べられた。 ミクロンサイズのエンボス加工は、鋳型作製プロセスは構築しているものの、鋳型深さが不十分なため、実用性の低いものになった。この点は、次年度にも継続調査の予定である。 また吸水量制限に関しては、撥水薬品とエンボス加工と組み合わせた実施により実現できた。エンボス加工に撥水コーティング加工を組み合わせることに成功しており、吸水・撥水領域の加工が容易になっているのが特徴である。工程により裏面からの液漏れが発生していたが、追加工程を加えることで本件は解決することができた。 また、次年度研究予定である「電極センサの集積化と測定」に関しても、初期検討まで進めることができた。電極形成手法の調査・実施を行い、初期検討を行う事ができた。またエンボス加工+吸水量制限+電極形成の組み合わせ加工にも成功している。ゆえに部分的には計画より進展した状況にある。 以上の進捗により、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
目標である「電極センサの集積化と測定」の研究を進めるとともに、昨年度の継続調査予定である「極微量での吸水量制限」を研究する。 電極センサに関しては、昨年度に初期検討まで実施できており、今後は電極の導電性、接触抵抗の詳細調査を行い、最適な電極形成手法について研究する。紙媒体上の電極のため、サンプルとの接触抵抗の調整は大きな課題となる。接触抵抗の低い最適な電極形成手法を研究し、さらに昨年度実施した吸水量制限と電極の集積化プロセスを確立することが大きな目標である。 また、本件に適した測定プロセスも考案する必要がある。現時点では、ろ紙内へのサンプル液体の浸透速度のばらつきより、電気伝導率の測定値にばらつきがある事が判明している。ろ紙内の流体解析を行う事で、この測定上の問題を解決する。(なお本件の流体解析は、複雑になるため流体解析の研究を進めている大島商船高等専門学校の小林准教授に共同研究者として加わって頂き、研究を推進する予定である。)この流体解析を含めた電気伝導率の測定により、高精度の測定が可能になると考えられる。 また測定系として、簡易な形を研究する。電気伝導率測定のためには交流電気抵抗測定が必要になるが、市販のLCR測定装置を用いると高額な費用になる。これを簡易な電子回路により実現する。 また極微量での吸水量制限に関しては継続調査予定である。1μLの吸水量を目標に鋳型の深さを調整する。この鋳型は深堀エッチング工程による高アスペクト比形状を作製するほか、ウェットエッチング加工、切削加工などの手法も検討する予定である。
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