研究課題
本研究では、細胞老化の視点に基づいて、ヒトMSCの培養前期および培養後期の遺伝子発現頻度差を網羅的に解析し、ヒトMSCのstemness(幹細胞恒常性:細胞生存率や細胞移動能、サイトカイン分泌能ならびに多分化能)の維持に働く新たな分子機構を解明することを目的とする。初年度にあたる令和3年度は、複数のヒトMSC株における増殖能および特性の違いを、ヒトMSCの増殖能評価および遺伝子発現解析に基づいて解析した。骨髄由来MSCを本研究のモデル細胞として用い、長期培養期における細胞形態の変化を画像評価により解析したところ、同一細胞集団内において紡錘状、扁平状、粒状の形態をした細胞が存在しており、培養過程におけるこれら細胞形態の変化の割合も細胞株間で異なることが観察された。また、様々な形態を呈した骨髄由来MSCの細胞集団内から単一細胞を複数単離し、継続的に培養(クローン培養)を行ったところ、クローン間で増殖能がことなることが確認された。このことは、同一細胞集団内に特性が異なる細胞が混在していることを示唆している。次に、ヒトMSCの増殖性に関わる因子を探索するために、骨髄由来MSCの培養過程におけるRNAを経時的に抽出し、各培養ステージ(培養初期、中期、後期)における遺伝子発現をRNA-Seqにて網羅的に比較し、細胞株間および培養ステージ間での遺伝子発現レベルの分析を行った。階層的クラスタリング解析により、培養後期(9継代目)の細胞が培養初期・中期の細胞と比較して、遺伝子発現のプロファイルが大きく変化していることが明らかとなった。特に、細胞増殖能が低い性質をもつ細胞株については、培養前期と後期における遺伝子発現の変化が著しいことが主成分分析により確認された。よって、早期に分裂寿命に至る細胞株においては、幹細胞恒常性が失われた細胞が培養過程の早期段階で出現する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおり、複数のヒトMSC株における増殖能評価、クローン解析、網羅的遺伝子発現解析を実施し、ヒトMSCの増殖能および特性の違いに関するデータの取得が進んでいる。
昨年度に得られた結果を基に、増殖能の違いによってヒトMSCの細胞株を分類し、それぞれの細胞株が老化した時点における細胞特性と、RNA-Seq解析などの網羅的遺伝子発現解析によって得られた経時的な遺伝子発現プロファイリング結果とを比較し、ヒトMSCの細胞老化を規定する標的遺伝子群の発現変動パターンを確認する。
一部の物品において当該年度内での納入が間に合わなかったため。また、学会がウェブ開催になったことから旅費などを控えることができ、当初の計画より経費の節約ができたため。残金分は消耗品費及び旅費の一部として、次年度へ繰り越した。
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PHARM STAGE
巻: 21 ページ: 1-3