本研究では,医療機関における臨床検査としてではなく,日常生活の中で運動能力を評価できる方法の確立を目的とする。このための要件として,歩行などの強度の低い運動において運動耐容能が評価できること,医療機器ではなく一般に普及したウェアラブル機器を用いて測定・評価ができることを挙げた。 前年度の検討において,機器(9軸加速度計)を体表の5箇所(右手首,左手首,胸,腰,大腿部)に装着し,様々な行動(歩行,走行,階段昇降,座位,立位,仰臥位,歯磨き,トイレ,食事)を行った際のデータを取得し,加速度データから機械学習によって行動を識別できるか試み,特に手首と胸に装着した際に高い精度で行動を識別できることを示した。この結果は9種類のセンサーと高いサンプリング周波数(100 Hz)から得られたものであるが,これを実際の機器に組み込むことを考えると,データの保存容量・計算負荷・通信負荷の観点からデータ量はより小さい方が望ましい。つまり,より少ない種類のセンサーかつより低いサンプリング周波数で高い識別精度が得られることが望ましい。このため今年度は,センサーをどこまで減らせるか,およびサンプリング周波数をどこまで下げることができるか検討した。機器の装着部位は前年度の結果を受け,非利き手首および胸に限定した。 センサーは,非利き手首に装着した場合には加速度センサーのみでも多くの行動で識別精度は高かった。一方,胸に装着した場合には単独のセンサーでは識別精度が十分ではなく,2種類(加速度と地磁気など)を組み合わせることが望ましかった。サンプリング周波数は,10 Hzまで落としても行動識別精度には(行動の種類による傾向の違いはあるものの全体としては)大きな影響は及ぼさず,一部の行動は20から25 Hz程度の方がむしろ精度が高かった。ただし,1 Hzでは多くの行動で識別精度が低下した。
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