低侵襲手術への応用を目指す圧電PVDFを用いた医療用触覚センサの従来研究では, PVDFの高い耐薬品性や優れた機械的特性に起因する微細加工性の難しさがセンサの空間分解能向上の壁となっている。本研究では,マイクロマシン技術を駆使し,PVDF表面を直接微細加工することによって従来からの技術課題の根本解決を図った。 研究の初年度では,PVDFの微細加工手法に適した薬品の選定とエッチングマスク材料の耐性確認を行い,並行でCOMSOL解析ソフトを用いた数値計算を通じてセンサの感度・Cross-talkの影響とセンサ構造およびセンシング素子のアレイ配置との関係を確認した。次年度には,DMA(C4H9NO)溶液をエッチング用媒体としてPVDFの微細加工性の基本性質に関する実験研究を進め,エッチングマスクの開口ラインとg31方向との位置合わせ配置が高空間分解能センサ構造実現のカギとなることを明らかにした。研究最終年度では,これまでの知見を活かし,加工プロセス条件とDMA以外のエッチング液候補の追加選定を行い,PVDFの圧電性への影響が少ないプロセス温度領域で適切なエッチングレートやより狭い線幅の微細加工プロセスを設計しその具現化の検証を行い,圧電PVDFの結晶異方性を十分生かしてセンサデバイスの構造設計の選択肢幅を拡張し,また,圧電PVDFの異方性ウェットエッチング特性を活かしたダイヤフラム構造の実現によって,従来のセンサ構造において厚さ方向の印加荷重にg33がおもにセンサ出力に寄与した性質をg31とg32もセンサ出力に寄与できるような拡張したセンサ構造の実現が可能となり,センサのさらなる感度向上が期待でき,本研究で生れたPVDFの微細加工技術に関する知見によって,当初目標とした人間の指先に匹敵する高い空間分解能と感度を持つ医療用マイクロ触覚センサ構造の実現可能性を示すことができたと考える。
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