研究課題/領域番号 |
21K12826
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
池松 辰男 島根大学, 学術研究院教育学系, 講師 (10804411)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 良心 / ヘーゲル / ドイツ観念論 / 承認 / 自然法 |
研究実績の概要 |
2021年度は、ヘーゲル『精神現象学』における「良心」概念、およびその背景にある中世・近世の「良心」概念の系譜を検証した。その結果、従来はロマン主義との関連で解釈されがちであった『精神現象学』の「良心」概念が、トマス、ルター、パスカルに至るまでの広汎に及ぶ思想史的背景を背景とするものであることを確認することができた。特に、「良心‐自然法‐決疑論」と「良心‐自己‐神」という「良心」概念を巡る2つの関係を、『精神現象学』内部の文脈に照らして結合することができたことは、「良心」概念研究の点でもヘーゲル哲学研究の点でも意義深い。また、ヘーゲルにとって「良心」概念が、近世以前の伝統道徳や近代の義務論に代わる新たな実践と承認の原理を示唆するものであることも確認することができた。以上の研究成果は、口頭発表「解体のあとに来るもの : ヘーゲルによるGewissenの解釈とその意味」(第10回「構想力と精神病理学」研究会/2021年11月)で公表した。 また、2021年度には翻訳(共訳)『哲学の25年 : 体系的な再構成』(エッカート・フェルスター(著)/法政大学出版局/2021年9月)も上梓した。本書はカントから1800年代のヘーゲルに至るまでの哲学の基本問題の系譜を辿るものであるが、特に、カントやフィヒテの実践哲学の理念の成立過程を辿る試みや、『精神現象学』の成立経緯を巡る新たな考察の試みは、ドイツ観念論における「良心」概念の系譜の探究や『精神現象学』の解釈にとって、大いに参考となるものである。 なお、当初はドイツのヘーゲル・アルヒーフにて文献調査を行う予定としていたが、これは2021年度の新型コロナウィルス感染症の状況にかんがみ、延期とした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は新型コロナウィルス感染症の状況や他の研究活動との兼ね合いもあり、当初予定していたいくつかの研究を延期した。特に、当初予定していたドイツのヘーゲル・アルヒーフでの文献調査は延期とした。また、ヘーゲルの「良心」概念の背景となる中世・近世の神学・実践哲学との関連をより丹念に辿るには、初期ヘーゲルの神学・実践哲学にもより深く立ち入る必要があることが判明した。これをとりまとめるにはさらなる十分な時間が必要となるため、2021年度は研究成果の論文発表を見送った。 ただし、研究方法や対象を調整することでフォロー可能な程度の軽微な遅れであり、研究全体の計画に支障が出ているほどではない。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度には、現在研究代表者が翻訳(共訳)に携わっている新校訂版『ヘーゲル全集』(知泉書館)第1巻が刊行予定であり、これに伴い、国内の初期ヘーゲル神学・実践哲学研究は新たな節目をむかえることが予想されている。当該範囲はヘーゲルの「良心」概念の成立過程、特に2021年度に確認した中世・近世の思想史的背景との関連を追ううえでもきわめて重要であり、2022年度はまずその総括を行う予定である。またこれに関連して、特に18世紀後半から19世紀初頭にかけての「良心」概念の系譜について(従来のロマン主義的解釈にとらわれない形で)、特に初期ヘーゲルとの関連を念頭に総括する予定である。 一方、ヘーゲルの「良心」概念は、よく知られているように、1807年の『精神現象学』では「宗教」に行き着き、1821年『法の哲学』では「国家」に行き着く。だがまた両者はいずれも、近代以前の倫理や社会のかかえる限界への応答という点で一致してもいる。2021年度の研究ではそのことの意味を深く掘り下げて検証することはできなかった。2022年度は、上記の初期ヘーゲル哲学研究との関連も念頭に置きつつ、講義録等の資料をもとに、ヘーゲル哲学全体における「良心」概念の位置づけの変遷を見なおすことをも試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の経費は主に研究文献の購入にあてられた。2021年度末頃に2,797円の残額が生じたが、その時点でこの残額の枠内で本研究にとって必要であると合理的に判断しうる研究文献はなく、また本研究に関連する消耗品等の購入の必要もなかったため、次年度に繰り越すこととした。
|