研究課題/領域番号 |
21K12828
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
太田 裕信 愛媛大学, 法文学部, 准教授 (20788509)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 西田幾多郎 / 鈴木大拙 / 柳宗悦 / ポイエーシス / 善の研究 / ドストエフスキー |
研究実績の概要 |
本研究課題は西田のポイエシス(制作の意で、芸術や技術をその領域として含む)論の本質と現代的意義を明らかにすることを目的とするが、当該年度は西田のポイエシス論を柳宗悦の「民藝」論との関係から論じた論文を発表し(共著の図書に収録)、また西田のポイエシス論を西田の親友であり著名な仏教思想家である鈴木大拙と柳の三者の関係から考察した学会発表を行った。これらの研究は当初の予定では2年目に遂行するものであったが、予定を変更し1年目に行った。 これらの研究により、西田のポイエシス論が、高校教師時代の教え子であった柳の民藝論と深く通じ合うものであること、また親友の大拙との関係から西田のポイエシス論を見ることで、西田のポイエシス論が仏教的な「無心」の働きを重視しながら、自然やその土地の文化に根ざし、労働に喜び(創造性)をもたらすポイエシス(制作)を理想としていると解釈できることが明らかにされた。 また当初の予定にはなかったものだが、西田の『善の研究』の倫理学をアリストテレスと儒教に関する言及から考察した論文と、西田とドストエフスキーとの関係を論じた論文も発表した。これらの研究を遂行した理由は以下の通りである。前者に関しては、西田のポイエシス論は「倫理」的な意味を多分にもっており、それを明らかにするためにも西田の基本的な倫理観を再考しておく必要があったからである。後者に関しては西田のポイエシス論は近代の「人間中心主義」に対する批判を伴っていたが、その批判はドストエフスキーへの好意的な言及によって遂行されており、その意味を明らかにする必要が生じたからである。これらの研究成果を踏まえながら、今年度以降の研究は遂行されることになるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初2年目に遂行予定であった研究の学会発表を行い、それに関わる研究成果を論文として発表することができたとともに、また当初予定にはなかったが今後の本研究課題の遂行にあたって有益な論文2本を発表することができ、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と言える。 具体的にいえば、当初2年目に遂行予定であった西田・鈴木大拙・柳宗悦の三者の連関を考察する研究を、1年目に遂行し学会発表を行い論文発表の基礎を固めることができた。また西田と柳に関する論文を、共著の図書に収録することができた。また当初の予定になかった論文を2つ発表したことにより、今後の本研究課題に深みをもたらすことができるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
まず学会発表を行った西田・鈴木大拙・柳宗悦の関係をめぐる論文を、今年度8月末日までに学会誌(宗教哲学会)に投稿し発表する。西田のポイエシス論を仏教思想家・大拙と民藝思想家・柳との関わりから考察することで、その内容がより明晰、かつ深く明らかに示されるはずである。 また本研究は3年目(来年度)に西田とハイデガーのポイエシス論の比較研究を最終目的としており、来年度の秋(9月)にハイデガー・フォーラムでの口頭発表を目標としている。そのために、昨年度に引き続きハイデガーの研究も十分に行い、その目標のための準備を遂行する。 さらに、本研究課題とは少し重なるところがあるが(西田のポイエシス論の章を入れる)、本研究代表者は目下、これまでの西田研究をまとめ大幅に加筆修正した単著を計画しており、今年度9月頃までにいったん完成を目指す。 なお、当初の予定では1年目に、西田とハイデガーの技術論を援用しながら考察した上田閑照の「二重世界内存在」の考察を、本研究内定日以前に掲載が確定した研究論文(英語)を土台に行う予定であったが、現在では改めて上田の理論を深める考察の必要性について慎重になっており、この考察に関しては遂行しない可能性がある。その代わりに、最終目的であるハイデガーとの比較研究の準備を盤石なものとしたい。もし予定通り遂行するならば、西田から強い影響を受け上田と親しい関係にあった著名なハイデガー研究者・辻村公一の西田・ハイデガー解釈にも目を向けて、上田哲学を西田・ハイデガー論から考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
まずコロナ禍により、当初予定していた旅費を使用することができなかった。また当初1年目に購入する予定であったPCの購入にあたって、半導体不足による納期の遅れから購入製品の選択の決断に慎重となったこと、古いPCがなんとか(動作は重いが)作動していること、図書経費が少し嵩んだことなどから、その分の経費の使用を次年度に持ち越すことにした。 今年度に新しいPCを購入すると共に、感染対策に慎重を期しながら学会出張の旅費にあてる。
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