2023年度は、田辺元のヘーゲル論とブランダムのヘーゲル論との比較検討を行った。具体的に言えば、田辺が1932年に刊行した『ヘーゲル哲学と弁証法』の中の「ヘーゲル判断論の理解」という論文を丹念に読み解き、そこでの田辺の立場が、論理的な判断がすでに社会的実践に媒介された営みであることを明らかにした。そして、そうした田辺の立場が「種の論理」の基本的立場に受け継がれていることも同時に論じた。こうした田辺のヘーゲル判断論理解が、文脈をまったく異にするとはいえ、ブランダムや彼に影響を与えたセラーズの立場と、発想において共通する点があることを明らかにした。田辺とネオプラグマティズムのヘーゲル論の比較検討は、2023年6月10日に開催された第3回日本哲学コンソーシアムにおいて「西田と田辺のヘーゲル理解の争点――分析哲学のヘーゲル論を手掛かりとして」と題して発表した。また、田辺のヘーゲル判断論の立場についての詳細な解釈は、「田辺元とヘーゲル-コプラの論理と判断の社会性」(『人文論叢』55巻2号、福岡大学、2023年)において論文として掲載した。 3年間の研究の成果は主に以下の2点に集約することができる。(1)思想的な関係性がまったく想定されていなかった、英米の分析哲学と近代日本の京都学派との内面的な関係性が、両者がヘーゲルに関心を示していること、さらにその足場としての行為・実践の立場に立脚していることに着目することで、明らかにされたことにある。具体的には、判断の社会性に注目するという意味において田辺とプランダムの立場には重なり合うところがあると言える。(2)分析哲学の明晰な問題理解ないしは問題設定を取り入れることで、田辺の複雑で抽象的な主張を具体的に理解する視点が獲得された。
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