研究課題/領域番号 |
21K12840
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福谷 彬 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (40826004)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 朱子学 / 中江兆民 / 井上毅 / 太極図 |
研究実績の概要 |
2023年度は、南宋期の道学の勢力拡大において、重要な役割を果たしたと考えられる周惇頤の『太極図説』について、考察を深めた。そもそも道学の中で、周惇頤が顕彰されたのは、朱熹以前に道学の中心的勢力だった湖南学が、湖南地域の賢人である周惇頤を程頤の思想的淵源として顕彰し、湖南学の正統性を主張する中で生じたものであったが、当初は『通書』を重視し、『太極図説』はさほど注目されていなかった。これに対し、朱熹は李延平師事期より『太極図説』に注目し、『太極図説』中の存在論と、二程の修養論を結合させることで、周惇頤と二程に欠けているものを補い合わせ、思想体系としての完成を図ろうとしたのである。この成果は、外村中・稲本泰生編『「見える」ものや「見えない」ものをあらわす』(勉誠社。2024,3月)の一篇「道学における周惇頤顕彰と『太極図説』への注目」として掲載された。また、本年は研究の視野を中国宋代だけではなく、日本近代へも広げ、明治期日本を代表する儒教的教養を持つ知識人である井上毅と中江兆民をめぐって、彼らの「国民」観を考察した。近代的な国民の概念は、本来伝統的な日本語の語彙には存在しないため、明治知識人には、儒教的な語彙を用いることで、近代的な国民を説明しようとした。井上毅は、国家の主権者としての天皇と国民との関係を、親子関係とのアナロジーで捉えたため、教育勅語や日本国憲法では、諫言よりも忍従が美徳とする価値観が形成された。これに対して、中江兆民は、天皇と国民を、君臣の関係で捉え、国民の政治的主体性を尊重する考え方を持っていることを論じた。この成果は、重田みち編『「日本の伝統文化」を問い直す』(臨川書店。2024年3月)の一篇「明治の儒教的伝統と二つの国民観─井上毅と中江兆民に注目して─」として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「政治的主体性」形成の思想としての宋明理学の思想が、日本近代に対しても、影響を及ぼしていることを指摘することができ、当初の計画以上の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
宋代においては、金などの外国との外交的緊張は、士大夫輿論や道学勢力の隆盛とどのような相関関係があったのか、考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査を予定していたが、余裕をもって準備したにも関わらず、出国予定時までにビザが下りず、実施できなかった。西洋の社会学や政治思想に関する研究にも目を向けているため、必要な書籍の購入を進めていきたい。
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