当該年度は、昨年度にまとめた論考「中国兵学における五星占の理について」を加筆修正し、水口幹記編『東アジア的世界分析の方法―〈術数文化〉の可能性―』(文学通信、2024年)の一篇として発表することができた。 さらに、これまでの研究をまとめた書籍『術数からみた中国兵学思想史研究』(朋友書店、2024年)を刊行することができた。本書は、これまで『孫子』を中心とした人為に基づく研究中心であった中国兵学思想史研究に対し、占術・術数という新たな視点からのアプローチを行うものである。 本書は、序章と本章七篇から成り、大半が発表済みの論考を加筆修正したものとなるが、序章と第一章附篇は書き下ろしである。序章では、特に2000年以降の中国兵学思想史研究を整理・分析した後、残されている課題について言及し、本書で検討する内容について説明する。第一章附篇では、『隋書』経籍志・兵家に収録される兵書について、佚文を活用しながら、術数との関わりを検討する。 また、中国軍事における鬼神・廟の認識について、古代から宋代までの記述を検討しながら明らかにした。まず『左伝』の記述から、特に春秋時代の軍事において、祖先神としての鬼神や、鬼神を祀る廟が重要視され、勝敗を左右する存在だと認識されていた。一方、『孫子』『尉繚子』など先秦の時点で、鬼神が批判的に捉えられることも多かった。『太白陰経』など唐から北宋の兵書になると、基本的に否定的評価がなされた。また、『左伝』以降の鬼神自体の認識については、祖先神というよりは、厲鬼・神霊・神々といった捉え方がなされていた。そして廟も、占術的・信仰的な認識から、徐々に人為的な認識として定着していた。以上の成果は、「中国生活文化の思想史」班第10回研究会にて発表した。
|