研究課題/領域番号 |
21K12848
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
山本 孟 山口大学, 教育学部, 講師 (90793381)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ヒッタイト王国 / アナトリア / 冥界 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、前2千年紀アナトリア(現在のトルコ)は、ヒッタイト王国の人々が信じた冥界と王権の関係性を理解し、そこにヒッタイト独自の冥界観があったことを明らかにすることである。また、その成果を周辺のエジプト・メソポタミア・聖書世界と比較し、ヒッタイト王国を軸に古代東地中海世界における冥界観の共通点と差異を理解する。本研究では、三段階の研究を想定している。はじめに、神話文書をもとに、ヒッタイト文書に表される冥界観を理解する(研究1)。次に、「死」に関するヒッタイト語表現の分析を行い、王家の人々と王家以外の人々の供養の違いとそこに現れる死生観を明確にする(研究2)。また、トルコで遺跡調査を行い、宗教建築遺構と王の霊廟、および祭儀の方法・目的を明らかにする(研究3)。 2021年度は、神話文書からヒッタイトの冥界のイメージを明らかにすることを目指した。日本オリエント学会第63回大会では、「ヒッタイト文書における「魂」とその移動のイメージ」という題目で口頭発表を行い、ヒッタイト時代アナトリアにおける魂の行き先としての死後の世界観とその時代的変遷の理解を試みた。「魂」の一側面として、人間の魂には液体のイメージがあったことと、生死にかかわらず人間の魂は移動するものとして語られることがあった点が明らかになった。2022年1月には、同志社大学一神教学際研究センターにて、研究協力者らと「CISMORリサーチフェロー研究会:古代中近東における「冥界」」を開催し、ヒッタイト文書に現れる「死者(の霊)」を意味する語(シュメログラムGIDIM)の用例を整理し、報告した。また同会では、参加者が古代中近東の「冥界」をテーマにそれぞれの研究報告を行った後、意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね研究計画に沿って研究を進められている。日本オリエント学会での報告成果は学術雑誌に投稿する予定である。 当初は、研究3の予備調査として、トルコでモニュメントを調査・写真撮影を行う予定であったが、渡航制限等で現地調査が困難であったため、2021年度は、主に京都(京都大学・同志社大学)で資料収集を行った。また京都大学総合博物館で楔形文字粘土板文書の調査を行い、知見を広げた。なお、その成果は2021年3月に京都大学総合博物館の図録として刊行された。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、今年度明らかになったヒッタイトの冥界のイメージの理解を基礎に、死と冥界の神々についての理解を深める。まずは、ヒッタイト文書に現れる「冥界に続く道」を意味する語・「死」の婉曲表現についての研究を行う。また、祭儀文書から、冥界の神々とその祭儀の方法について整理する。可能であれば、トルコに渡航し、冥界の神々に対する儀礼と関連すると思われる遺跡・遺構を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、トルコへ渡航できなかったため、次年度使用額が生じた。2022年度にトルコでの調査を実施する予定である。渡航ができない場合には、現地モニュメントのデータ資料の収集のための支出を予定している。
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