研究課題/領域番号 |
21K12849
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
平岡 光太郎 同志社大学, 研究開発推進機構, 共同研究員 (00780404)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マルティン・ブーバー / ダヴィッド・ベングリオン / ユダヤ思想 / 聖書解釈 / ユダヤ・ナショナリズム |
研究実績の概要 |
2021年は、4月~8月の期間中は、ベングリオンとブーバーによる国家理解、預言理解、メシアニズム理解に関する論争について、モーリス・フリードマンの著作を通して考察した。フリードマンは、ベングリオンが国家を説明する際に「贖いの始まり」(the beginning of redemption)という表現を用いたとするが、「ベングリオンがこの表現をヘブライ語でどのように語ったか」という問いは重要である。なぜなら、それがタルムードに根差すユダヤ教的な表現なのか、それとも世俗派に見られる一般名詞を用いているかによって、その「贖い」の射程が変わるからである。9月8日に、日本宗教学会第80回学術大会に参加し、「現代イスラエルにおける聖書解釈―ベングリオンとブーバー―」という題目で、8月までの調査結果を発表した。 9月から2022年3月までは、1957年にベングリオンとブーバーのあいだでなされた論争に焦点を絞り、特にダヴァル紙に掲載されたブーバーの記事や、ベングリオンがダヴァル紙に送った書簡などを調査した。この調査により、ベングリオンが「贖いの始まり」を「エトハルタ・デゲウラ」というタルムードに由来するユダヤ教的な表現を用いていることを確認できた。3月13日に、日本ユダヤ学会の関西例会にて、「ベングリオンとブーバーによる伝承理解―1957年の論争を中心に―」という題目で、前年9月から3月までの調査結果を発表した。 2021年度の研究を通し、ベングリオンが「贖いの始まり」というユダヤ教的な表現によってイスラエル国家を捉えていることを確認した。これは、「ベングリオンは「世俗派」である」と単純に論じることが不十分であるということの証左ともなる。イスラエル国の首相であったベングリオンの言説にこの傾向を見つけたことは、現代ユダヤ・ナショナリズムを考える上で、重要な発見と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、当初予定していたイスラエルでの文献・資料収集と調査を実施することができなかったため、これまでの研究で十分に着目されていない点や文献・資料を確認することができていない。また最新の研究状況の確認が十分にできておらず、これらについては、次年度以降の課題となる。 上記のような状況はあったものの、手元にある文献やオンラインなどで入手できる資料から、ベングリオンによる「贖いの始まり」というユダヤ教的側面を発見できたことは、研究の初年次にあたり大きな収穫ともいえる発見であった。ただし、この表現の使用ひとつを取って、ベングリオンを「宗教派」のように捉えることには問題があるために、これを踏まえて、ベングリオンの立場を調査することが今後の課題となる。同時にブーバーが「贖いの始まり」という表現をどのように理解していたかも研究を実施する上で重要な課題となった。ベングリオンとブーバーを比較する際の重要なキーワードである「贖いの始まり」を調査対象に設定できたことにより、研究初年次における一定の目標に達することができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年の8月は、文献・資料収集と調査、またユダヤ学国際会議で研究発表をするためにイスラエルへ渡航予定である。5月の現段階で、PCR検査等の手続きをしたうえで、イスラエルへ入国することは可能であることを確認している。初年次には、イスラエルでの文献・資料取集と調査を実施できなかったため、当初の計画に変更を加え、2022年度はイスラエルでの調査期間を延長する。これにより1年目の遅れを取り戻し、研究の進捗状況の改善を図る。 ベングリオンとブーバーを考察するうえで「贖いの始まり」という表現に着目したことから、ユダヤ教におけるこの表現の展開を調査し、ベングリオンとブーバーがどのようにこの表現を受容していったかを調査課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、コロナウィルスの影響により当初予定していたイスラエルでの文献・資料収集と研究調査を実施することができなかった。このため、2022年度は計画を変更して、イスラエルでの研究滞在の期間を延長する。2021年度に利用する予定であった予算を、2022年度以降の国外での研究滞在や図書購入に当てる。
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