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2021 年度 実施状況報告書

カントにおけるパトリオティズム概念の形成と展開:18世紀末の啓蒙と愛国の論争から

研究課題

研究課題/領域番号 21K12854
研究機関北海道大学

研究代表者

齋藤 拓也  北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (70759779)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワードカント / 啓蒙 / パトリオティズム / 言論の自由
研究実績の概要

初年度は1780年代の啓蒙の自己理解をめぐる論争に着目し、パトリオティズムを考察する基本的視点を定めるべく研究を進めた。
フリードリヒ二世が人民の誤謬は統治に有益かという啓蒙への疑義をベルリン学術アカデミーの懸賞論題として提案したことが一つの契機となって、プロイセンでは民衆啓蒙の是非と方法について議論が起きた。1783年には『ベルリン月報』で宗教の啓蒙を説く立場(J. E. ビースター)と宗教と国家権力の結合を説く立場(J. F. ツェルナー)が現れ、宗教の啓蒙がパトリオティズムを促進するか否かが問われた。1784年には改革派法官僚のE. F. クラインが「思想と出版の自由について」を発表し、国家の命令への服従義務を強調しつつ、思想と出版の自由は国家と統治を改善する提案を促し、その行使がパトリオティズムになると述べる。
カントは「啓蒙とはなにか」(1784年)において理性の私的使用という用語で国家権力に服従する必要を説く一方で、理性を公共的に使用し、宗教と統治に関して「思考様式の真の改革」を促進する立場を「公共体(=政治社会)全体の成員」として表現している。ここでカントは明示的にパトリオティズムという言葉を用いていないが、啓蒙と愛国をめぐる論争を受けて、宗教と立法に関する言論の自由の行使がパトリオティズムを促進するという新しい思想が生まれていることを、この時期のカントの講義録とそれ以前の1760年代から70年代の講義録や覚書等の比較によって確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

啓蒙とは何かをめぐる一連の議論で特に問題となっていたのは、啓蒙が統治や国家体制にとって有益であるかという点であった。これは、啓蒙主義者が自らを愛国者とみなして活動するさいにつねに問われていた事柄でもあった。「啓蒙とは何か」が『ベルリン月報』誌上で議論されていた1780年代に、カントが啓蒙だけではなく、それと合わせて問われていた愛国(パトリオティズム)をどのように定義していたのかを明らかにすることで、今年度は一定の成果を得ることができた。今後、論文として発表できるよう準備を進める。

今後の研究の推進方策

カントの著述活動がフランス革命前後に強化された検閲制度のもとで軋轢を生じた理由が宗教の啓蒙であったことの意味を、当時の文脈とカントの思考の展開に即して考察する。そのさいに、『ベルリン月報』に掲載されたカントの諸論考が主な分析の対象となる。カントは教会信仰の場合にも、統治の場合にも、幸福という目的のもとで規範的なもの(道徳や人間の権利)が二次的な扱いを受けていることを指摘し、これをあるべき「思考様式」の欠如あるいは転倒として批判している。
本研究で、政治のみならず、見落とされがちな宗教(教会信仰)の啓蒙に関する言説にも注目する理由は、当時のプロイセンでは教会制度は領邦国家の管理下に置かれており、カントの教会信仰批判が統治への批判をも含意するものだったことにある。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウィルス感染症の影響で、研究課題遂行にかかる海外渡航等の出張を実施することができなかったため、次年度使用額が生じた。次年度には、資料収集等の出張のためにこれを使用する計画である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (1件)

  • [雑誌論文] 普遍性と党派性:カントが思考様式について語るとき2021

    • 著者名/発表者名
      斎藤拓也
    • 雑誌名

      日本カント研究

      巻: 22 ページ: 53 - 65

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公開日: 2022-12-28  

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