研究課題
本研究は以下の二点から構成されるものである。①教団運営者による始祖の思想の受容の様子の研究、②中世期スーフィズム思想の、スーフィー教団における具現化に関する研究、についてである。代表者はこれまでの研究において、教団の始祖となるスーフィーの思想を基盤として特定のスーフィー教団が成立していく際、教団運営者は始祖の思想を取捨選択し、教団教義を確立していくという点について明らかにしてきた。今年度は特にトルコのメヴレヴィー教団の教団創始者スルタン・ワラドと、教団の思想的基盤を提供した彼の父であるジャラールッディーン・ルーミー(d. 1273)との間の思想波及の様相に着目した。ルーミーは悪と善との究極的なレベル(神的なレベル)においての一性を強調する立場に立ったため、イスラム世界の悪魔に関し、必要悪としての重要な役割を与えていた。悪が現出することでまた善も立ち現れるのであり、そう考えるのであれば悪も善も神のために自らの役割を遂行しているのである。一方息子であり、メヴレヴィー教団の運営者であったスルタン・ワラドは、父の思想を後世へと継承するという目的意識を強く持ちながらも、悪魔に関しルーミーとは異なる態度をとっている。スルタン・ワラドは悪魔に関し、アダムへの跪拝を断った傲慢の徒であるとして、イスラム世界で典型的な悪魔理解の様子を見せているのである。ルーミーの悪魔理解の方法は、悪に関し究極的には一であるとの矛盾的な内容を含む、上級者向けの善悪理解の方法であり、必ずしも一般的であるとは言えない部分がある。スルタン・ワラドは教団経営にあたり、父ルーミーの思想のうちでも特に理解力に劣る者にとって受容しがたいような考えについては、より一般的な解釈へと変化させている可能性を指摘した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた海外での資料収集以外は順調に研究を遂行できている。当初から海外での資料収集はコロナの影響で実施困難であると予想していたため、写本以外の資料を利用し、研究を行った。刊本となっている資料について時間をかけて精読することが可能であったため、今年度はルーミーとスルタン・ワラドの思想的な波及の様相について、具体的に善悪という概念を通して明らかにすることができた。引き続き刊本となっている資料を用い、さらに研究を遂行することで、本研究の目的である①教団運営者による始祖の思想の受容の様子の研究、②中世期スーフィズム思想の、スーフィー教団における具現化に関する研究との間を架橋するような研究を行い、最終的には①と②との連続性を指摘したい。
今後もコロナの影響で海外での資料収集の実施可否については不透明である。出来得る範囲でさらに刊本となっている資料を収集し、精読を行うことで研究を進めていきたい。特に今年度は、取捨選択され、教団教義として受容されていった始祖スーフィーの思想が、教団においてどのように具体化されていったのかについて詳細な研究を行いたい。教団の教義とともに、教団の儀礼などにも着目することで、始祖の思想が教団内で実現されたのかを明らかにする。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 2件)
『イスラム思想研究』
巻: 第3号 ページ: 123-139頁
10.15083/0002000997
Debate, Dialogue and Diversity in Sufism, Kyoto Kenan Rifai Sufi Studies Series , Kyoto: Kenan Rifai Center for Sufi Studies,
巻: 4 ページ: pp. 103-114.