研究課題/領域番号 |
21K12868
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
丸山 瑶子 東京藝術大学, 音楽学部, 研究員 (10897482)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 室内楽 / 音楽学 / 比較研究 / 19世紀 / 18世紀 / 楽曲分析 / 音楽史 |
研究実績の概要 |
当該年度は研究課題の初段階として、室内楽作品の創作と作曲家に関する情報収集を進めた。また当時の室内楽演奏についての研究状況の確認及び関連文献の読解を継続している。 音楽分析においては、ピアノ三重奏曲の楽曲比較分析を行った。当研究課題は楽器法の研究を中心に据えているため、2021年度にはピアノ三重奏曲の音響を決定する一要素である弦楽器の重音奏法とピアノ・パートの声部進行に着目し、研究対象年代の作曲家からサンプルを取って分析を行った。結果としてベートーヴェンとシューベルトの間に、弦楽器2パートがある一定のパターンで重音奏法を行う間、ピアノが動く音域がより可変的であるという共通の特徴が見られた。音響面に影響を及ぼすこの特徴は他の同時代人にはあまり見られなかった。そこでさらに時代を下ったピアノ三重奏曲を比較対象に含めたところ、むしろ19世紀半ばから後半のピアノ三重奏曲に類似の書法が目立った。ここから1830年頃までの一般的書法からするとベートーヴェンとシューベルトの書法はどちらかと言えば特異であり、また両者の作品が後世の作曲家に影響を及ぼした可能性が浮上する。この成果は国際学会にて発表した(特別研究員奨励費の成果と同時発表)。 加えて、弦楽四重奏曲に関しては、2020年に行った学会発表に基づきつつ研究内容を深化させた。すなわち従来、弦楽四重奏曲は主に私的なジャンルであり、享受の対象は演奏者自身という見解があったが、弦楽四重奏曲の書法には第三者としての聴衆の存在がなければ効果が減じるものがある。これに関し、当時の弦楽四重奏曲の演奏に際しての聴衆の態度や奏者の側が留意すべき「視覚的効果」に関する当時の認識などを確認し、分析結果から導き出された主張を補強して論文としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は研究対象にこれまで扱わなかった作曲家を加えたことや、海外の研究者との盛んなやりとりによって新しい知見を得られたことが多く、そこから成果発表物(学会発表、論文執筆)もある程度出せた。当初の見込み通り、やはり室内楽書法において音響面に関わる特徴が様式決定に重要であること、また室内楽の聴衆に対しても音響が大きな意味を持っていたことが明らかになっている。 弊害になったのはコロナ禍による渡航制限である。一次資料の中にはデジタル化されてオンラインで閲覧できるものも多々あるほか、海外機関からのデータ送信も確かに可能ではある。しかしながら中には資料記述だけでは取り寄せる価値がある資料かどうか判断がつきにくく、実際に現地調査を要するものも少なくない。また作曲家に関する基礎文献が海外機関にしかない場合もあり、その点で基本的情報の収集も遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き当時の室内楽の演奏実践状況の調査を続ける。並行して理論書だけではなく実践に則して室内楽についての認識も具体的に明らかにする。 資料調査では、コロナ禍による渡航制限の緩和から、2022年度は本格的な海外調査を実施したいと考えている。室内楽は出版されない作品も多数、確認されていることから、そうした作品については信頼に足る手稿譜の閲覧と楽譜作成を継続する。特にまだデジタル化の進んでいないイタリア各地の資料館の所蔵資料調査を行う予定である。 楽曲分析は概ね計画通りに実施し、昨年度に遅れた部分は本年度に進めていく。また昨年度に学会発表の形で成果を出したピアノ三重奏曲の音域利用については、過年度の分析をさらに進める。それと共に、未着手の室内楽ジャンルの分析も開始する。 上記の通り基本的に当初の予定に沿った研究の遂行を目指すが、昨年度の研究において、計画していた対象年代よりも幅を広げて楽曲分析を行ったところ、多少なり明確な様式変化が確認された。この点に鑑み、本年度以降も当初予定していた研究対象年代よりもやや後の時代まで視野を広げて楽曲分析を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による調査研究渡航制限により、2021年度の使用額が減じたため、次年度使用額が生じた。 2022年度は大部分を調査研究渡航のための旅費に使用する予定である。
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