2023年度は、明治期に編まれた書道史のうち、「和様」の書について論じているものを取り上げ、各著者が捉える「和様」形成期の典拠を考察した。書道史が編まれ始める明治20年代は、小杉榲邨や横井時冬、関根正直等が『異制庭訓往来』の部分を引用しており、この記述を小野道風および三跡による「和様」形成を証するものとしていたことが窺えた。明治40年代の三省堂刊行『日本百科大辞典』も同様である。明治期以後は古文献を明示しながら書道史を記述すること自体が少なくなるが、特に明治前期の国学者達は文献考証を能くし、「和様」形成期の典拠を『異制庭訓往来』に求める傾向があった。
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