研究課題
2023年度は、20世紀初頭の「新たな舞踊」潮流の内実とその諸相について、次の2つの観点から研究をすすめた。(1)舞踊における「近代性」概念についての分析20世紀初頭の「新たな舞踊」潮流を率いた舞踊家の一人として、ドイツを中心に活躍したアレクサンドル・サハロフをとりあげた。サハロフ本人の著述にくわえ、日本やヨーロッパで発行されたサハロフ評を広く調査分析した。そこから1900年から1950年代頃までの日欧では、舞踊の「近代性」が具体的にどのようにとらえられていたのかを探究した。「モダン」は20世紀の舞踊史を語るうえで重要なキーワードである。しかしくわしく一次資料を調べてみると、「モダン」は単なる前時代的な風習の打倒(つまり旧舞踊としてのクラシックバレエの打倒)という単純な図式ではなく、あらたな価値形成同士が競合しあうなど、より重層的で複雑であることが具体的に見出せた。今後も広く芸術史一般を参照しながら、舞踊における「モダン」のあり様を探究しつつ、この時代の舞踊譜にあらわれる姿態造形法の特徴について考察をすすめていく必要がある。この成果の一部は、論文「近代舞踊黎明期におけるアレクサンドル・サハロフとデカダンス」(舞踊學、第46号)にて公表している。(2)近代舞踊における舞踊記譜法の芸術的意義についての分析1920年代にドイツで考案された舞踊記譜法を取り上げ、これがいかなる動機のもとに実用化が図られたのかを、彼らが発行した雑誌記事の分析をとおして探究した。現在において舞踊記譜法は、録画技術が発達していなかった時代に舞踊を記録するための旧手段ととらえられる傾向がある。しかし当記譜法の考案は、舞踊芸術にたいするこの時代特有の思想を背景に考案されている。この成果の一部は、国際会議ICKLにて口頭発表をおこなった。
3: やや遅れている
本研究に不可欠な、ニジンスキーのいくつかの舞踊譜資料の収集が進んでいない。コロナ禍が明け海外資料調査が可能になった矢先、資料の所蔵先アーカイヴが変更になったことが判明した。新たな所蔵先についての情報は得られているものの、やりとりがうまく進んでいない。そのため当初の研究計画よりもやや進行が遅れている。
実施ができなかった記譜資料の入手については、2024年度の課題としたい。それと並行して、すでに入手済みの記譜資料を、試行をとおして詳細に分析する。ニジンスキーやサハロフといった舞踊家は彼ら独自の「新たな舞踊」を探究するにあたり、造形美術から影響を受けたとされる。彼らの記譜資料をもとに、具体的に造形美術からの影響がどのように見出されるのかを検討する。と同時に、彼らのめざした「新たな舞踊」の姿態造形的特徴を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
舞踊學
巻: 46 ページ: 24-34
西洋比較演劇研究
巻: 23(1) ページ: 44-86 (53-56)
10.7141/ctr.23.44