研究課題/領域番号 |
21K12878
|
研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
山本 樹 東京藝術大学, 美術学部, 助手 (90876343)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | カラッチ一族 / アゴスティーノ・カラッチ / ボローニャ / 美術アカデミー |
研究実績の概要 |
16世紀後期、北イタリアの都市ボローニャで頭角をあらわした画家一族カラッチは、初期バロックと言われる時代に活動し、17世紀美術の主流となる古典主義的様式を確立した。しかし、従来その評価は様式的な側面に偏っており、パトロネージや図像学的な観点からその美術史的位置付けを見定めようとする研究は、近年緒に就いたばかりである。本研究はアンニーバレ・カラッチを中心に、パルマやレッジョ・エミリア等で制作された作品群を取り上げ、図像学的観点から考察を行う。これによって、エミリア地方全域におけるカラッチの制作活動に着目し、ボローニャからローマでの円熟期へと至るまでの彼らの造形言語を跡付けることを目指すものである。 研究初年度に当たる2021年度は、新型コロナの影響により渡航調査が実施できなかったため、国内で可能な文献収集および一次史料の精読に取り組んだ。そして具体的な考察対象として、1603年にボローニャで行われたアゴスティーノ・カラッチ(1557-1602)の葬儀に着目した。アカデミーの会員により設えられた壮麗な葬儀では弔辞が読まれ、故人の生前の業績が讃えられた。本研究ではその弔辞をまとめたブックレットの訳出を行い、ここでアゴスティーノが当代随一の画家として称揚されたロジックを分析することで、ボローニャの美術アカデミーがローマ-フィレンツェ中心の美術史観に対して、自分たちの新たな位置づけを主張しようとしていることを論じた。その翻訳解題は「五浦論叢」(五浦美術文化研究所紀要)に査読掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナの影響により渡航調査ができず、当初予定していたイタリアの古文書館での調査や、作品の実見が実現していないため。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナや欧州の政情不安があるものの、夏期あるいは春期休暇を利用して、一度は渡航調査を実施したいと考えている。当初の年次計画を変更し、これまでに収集・分析できた文献資料に基づき、比較的調査を開始しやすいパルマ、庭園宮殿のアゴスティーノ・カラッチの装飾画(1600-02)を取り上げたい。アゴスティーノは寝室に接続する小部屋のヴォールトに、計5区画に渡ってフレスコ画を描いている。全体のプログラムについては、17世紀のベッローリの新プラトン主義的な解読に基づき、委嘱主ラヌッチョ1世・ファルネーゼとマルゲリータ・アルドブランディーニの結婚(1600)を祝した恋愛成就譚として捉えるアンダーソンの解釈(1970)が踏襲されてきた。だが描かれたカップルはペレウスとテティスとも、マルスとウェヌスとも言われ、テーマについては見解の一致をみていない。またスパンドレルに施されたストゥッコ装飾もこれまで詳細な考察の対象とされてこなかった。しかしながら、ボローニャのマニャーニ宮殿、ローマのファルネーゼ宮殿など、数々の居室装飾を手がけてきたアゴスティーノが、最後の作品である本作に組み込んだ図像的創意については、検討の余地があるのではないかと思われる。
今後の研究はこうした問題点を踏まえて進めるものとする。まずは各図像の詳細な観察に基づき、パルマのファルネーゼ家の美的趣味を分析すると共に、従来の解釈の妥当性について再考する。渡航調査が実現した場合は、庭園宮殿の居室の実見・撮影を予定しているが、もしできなかった場合もパルマの文化財保護局に協力を要請し、作品の精彩画像を取得する考えである。 こうして得られた調査結果を元に、当該居室の図像プログラムに関する解釈を提示し、葬儀で当代随一の画家と謳われたアゴスティーノの当時の評価軸に照らして、本作がどのように位置付けられるのかを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナのため、当初予定していた渡航調査が実現できなかった。2021年度は物品費として関連文献資料の収集に大部分を充てたが、残額は次年度に回したほうが渡航調査の際に有益であると考えた。
|