研究課題/領域番号 |
21K12899
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小川 翔太 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (00800351)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ファウンドフッテージ / コスモポリタニズム / アジア映画 / グローバル・アジア / 環太平洋研究 / フィルムアーカイブ・映像アーカイブ / デジタルアーカイブ / インターメディア |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実績報告で示した「今後の研究の推進方策」に従い、次のA.データ収集ならびにB.中間成果発表を実践した。
A. 初年度に国内外のアーカイブ機関を実地調査する当初の研究計画から、パンデミック下でも実行可能な改訂計画として作品中で使用されるアーカイブ映像を通したアーカイブ言説の分析に転換した際に、新たなテーマの一つとして取り上げた映像作家自身が残すアウトテイク素材が「アーカイブ的」なものとして論じられるデジタル時代の実践・美学(『映像学』107号、2022に発表)について追加調査した。具体的には、世界的に知られる映像作家トリン・T・ミンハと氏の最新作『ホワット・アバウト・チャイナ』(2022年)に関する公開対談を通したデータ収集(山形国際ドキュメンタリー映画祭と連携企画)、アーティスト琴仙姫との共同発表(AAS in Asia)を通したデータ収集、その他、国立映画アーカイブでの調査目的視聴や関連作品の国内上映会を通したデータ収集を実践した。
B.前年度に収集した文献に基づく大東亜共栄圏におけるアーカイブ映像言説の台頭に関して、国際学会AAS in Asia(韓国大邱、6月23日)での口述発表、ならびに大塚英志・星野幸代編『労働と身体の大衆文化』(水声社、2023年)への分担執筆論文「日本軍政下インドネシアのPOW Camp謀略映画--映画の健全化の余剰としての「幻のフィルム」の語り」として研究成果を発信した。また、上記Aで収集したデータに基づくアーティスト飯山由貴のビデオ作品『In-Mates』に関する論考を、東アジアにおける越境的な視点から相対的に考えるため、国際学会AAS(Association for Asian Studies、シアトル、3月15日)で韓国や米国を拠点とするメディア論者とパネルを組んで口述発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、研究計画提出後に生じたパンデミックや育児といった要因を鑑み、当初のアジア各国の映像アーカイブ機関を実地調査する計画を見直し、実験映画や現代アート作中の「アーカイブ映像」からコスモポリタンなアーカイブ概念を考察する改訂計画に転換するとともに、当初の計画にあったアーカイブ機関の実地調査は、最終年度にその是非を判断することとしてきた。本年度は、一方では、当初の計画ではアーカイブ機関として位置付けていた山形国際ドキュメンタリー映画祭(山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー)を、改訂計画を進める上で欠かせないアジアの映像作家がどのようにアーカイブ映像について理解しているかを探る実地調査の場として位置付け直すことに成功した。他方では、改訂計画に基づく口述発表ならびに論文・分担執筆を通した成果の報告が初年度から毎年コンスタントに出来たことを鑑み、当初の計画から持ち越しとなっていたアジアン・フィルム・アーカイブ(シンガポール)やSEAPAVAA(東南アジアで巡回開催)の実地調査は改訂計画の遂行に不要な作業と判断する根拠が得られた。本年度の進捗状況を「やや遅れている」とするのは、本年度に生じた遅れのためではなく、初年度の研究計画の改訂や育児休暇で生じた研究作業の遅れの余波である。改訂計画に基づく作業のうち下の「今後の研究の推進方策」に示す行程を、研究期間を1年間延長して行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、前年度までの調査に基づき、コスモポリタニズム言説と映像アーカイブ論の接合点にある問題として市民権(シティズンシップ)概念と国民国家などの主権領土概念の間に横たわるズレを、「非市民の映像アーカイブ」への想起を促す映像作品やメディア実践の事例に引き寄せて論じる文章を基礎研究B「デジタル映像アーカイブの未来研究」(20H01219)の分担執筆論文1編 として書き上げる。また、2023年度に行なった山形ドキュメンタリー映画祭を通した映像作家による「アーカイブ映像」の語りに関する調査を、同映画祭と提携して隔年開催される台湾ドキュメンタリー映画祭(5月10日-19日)で継続し、東アジアを横断するテーマとしてデジタル時代のドキュメンタリーメディアにおけるアーカイバル・ターンに関する多角的な理解を深める。尚、これらの映画祭や前年度までの国内外の上映会で収集したデータを整理し、本研究を拡大発展させた次期研究計画を構想する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、初年度にパンデミックへの対応や育児休業によって研究の遅れが生じていた。国外出張を最低限とする改訂研究計画をたてることで、二年次から研究をすすめてきたが、シンガポールのAsian Film Archiveをはじめとする当初の研究で提案していた国外出張は最終的に中止したことから上記の差引額が発生した。次年度使用額の使用計画は、改訂後の研究計画において欠かせないドキュメンタリー映画におけるアーカイブ映像の位置付けを台湾国際ドキュメンタリー映画祭(5月10日-19日)で実地調査するためにあてる。
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備考 |
AAS-in-Asia学会でパネルをともに企画した亜州大学Kim Han Sangとともに、パネルで議論したドキュメンタリー映画のアーカイバル・ターンをめぐるワークショップを作家Kim Dongryung、Park Kyoung-tae、琴仙姫を招聘して当学会の付随事業として開いた。
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