研究課題/領域番号 |
21K12907
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 有紀 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10632680)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 江永 / 梅文鼎 / 翼梅 / 授時暦 / 郷党図考 |
研究実績の概要 |
本年度は引き続き江永の『翼梅』を分析し、梅文鼎との比較を行った。とりわけ「二十四節気」に関する理論について、彼らが元代の『授時暦』をどのように評価したかを通して考察した。梅文鼎は『授時暦』に代表される伝統的な暦では恒気を用いており、恒気は人々の生活に馴染んでいるため、継続して使うべきだと考えた。それに対し江永は、天は渾然一体でもともと区切りはなく、節気は人間側の都合で作られたものであり、また、古の暦は簡易で、節気は後から加わったものに過ぎないが、『授時暦』のように、定気と恒気を併用するのは矛盾していると考えた。江永は、節気とは、太陽の運行という真理(「数の原理」)を、生活に役立てるための「数の技術」であると考えたのである。すなわち「技術」は「原理」と表裏一体であるべきであり、「原理」を把握した上で「技術」として応用できているかどうかが重要だと考えていた。このテーマに関しては中国で行われた国際学会で二回に分けて報告を行った(「朱子学視域下的元清二代的天文学与易学」「授時暦与清代天文学:天文暦法中的朱子学理念」)。 また本年度は、清代初中期の思想家たちが、「知」に対してどのような態度を有していたのかを検討するため、清代に止まらず、中国の技術の歴史について、二本の論文を執筆した(「士大夫の音楽論における北宋の経験」、“The Restoration of Traditional Instruments in Xiong Penglai(熊朋來)'s Sepu(瑟譜)”)。また、江永のその他の著作、特に『郷党図考』を分析し、江永の技術論が、彼の学術全体の中でどのような位置付けを与えられるのかを考察した(口頭発表「人となる第一歩としての郷党:孔子のふるまいの美学」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、梅文鼎以外にも、戴震との比較など、その後の清朝考証学への影響をふまえ、清代における江永の思想の意義を明確化する予定であった。しかし、本年度は梅文鼎のみに焦点を絞り、より深く考察を行った結果、同時代の思想家よりも、まずは元代の『授時暦』との比較が必要であると考えるに至った。清代における『授時暦』の受容というテーマはすぐに結論が出るものではないが、中国語での発表を二回行い、専門家より意見をいただけた収穫は大きく、研究はおおむね順調に進展しているといえる。 また本年度は、江永の思想における人間や自然に対する態度を、中国固有の問題として終わらせてしまうのではなく、東西に共通する普遍的な議論へと発展させながら考察した。このことについては、ナポリ東洋大学で行った“Science and Aesthetics in Chinese Music”あるいは国立大学附置研究所・センター会議特別シンポジウムで行った「前近代中国の天文学における技術の哲学」などの口頭発表の際に、様々な国の専門家や理系の研究者と議論を行ったことにより、ある程度達成されたが、その成果を論文として執筆するに至っていないため、さらに研究を進める必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでの研究成果を以下の二つの方向でまとめていきたい。 一つ目は、江永の『授時暦』に対する態度と朱子学との関係である。江永は朱子学を標榜しつつも、朱子学の理論に基づいて作成された『授時暦』とは、理論的には異なる立場をとった。次年度は、江永にとって朱子学とは何だったのかを問い直し、それを朱熹の『儀礼』学の体系にどのように位置づけられるのか、節気のほか歳実消長法などの暦の技術もとりあげ、『礼書綱目』にみえる暦論と合わせて分析する。 二つ目は、江永など清代の思想家たちの人間や自然、技術に対する態度を、より普遍的な問いに変換し、古今東西の様々な科学技術に関わる問題と比較することである。江永が「人間は自然に対してどのように働きかけるべきか」、また「自然を構築している理論をどう捉えるべきか」、そして「その理論を人間が応用し、役立てようとすること」について、どのように考えているかを分析し、技術を、人間が自然に対して何らかの分析をし、役立てようとする人類の普遍的な試みと捉え、近現代の技術の基礎となった西洋の技術を視野に入れた上で、人間にとって技術とは如何なるものかを考察し、中国における「技術哲学」を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、海外での学会発表に伴う旅費を支出する予定だったが、発表テーマが、他の科研費や所属機関が受け入れている寄付金による研究テーマにも合致していたため、こちらの経費を使わず、次年度の出張の際に用いた方が有効に活用できると考えたため。
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