研究課題/領域番号 |
21K12911
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
光平 有希 国際日本文化研究センター, 総合情報発信室, 特任助教 (20778675)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 音楽療法 / 精神医療史 / 旧帝国大学 |
研究実績の概要 |
本研究は、東京帝国大学、京都帝国大学、東北帝国大学、九州帝国大学、北海道帝国大学、大阪帝国大学、名古屋帝国大学、京城帝国大学(韓国)、台北帝国大学(台湾)といった近代に創設された旧帝国大学の精神医学講座や関連病院が主導した音楽療法実践に焦点を当て、「音楽療法実践記録書」や「病院年報」など音楽療法関連一次史料の個別及び比較分析を通じて、①近代の旧帝国大学における精神医療で、音楽療法が具体的にどのように行われ、どのような独自性を持っていたのか、②近代日本音楽療法実践の形成及び発展過程は如何なるものなのか、③統治期に導入された日本音楽療法が、韓国及び台湾の音楽療法史の中でどのような影響を与えたのか、④これらの音楽療法実践が日本ならびに海外を含めた音楽療法史上でどのような位置づけになるのかについて解明することを目的とする。 本研究1年目の令和3年度は、まず国内の旧帝国大学音楽療法関連一次史料、とりわけ京都大学、大阪大学に関する史料調査、さらに、これまで行ってきた九州大学、東北大学、北海道大学関連の史料もあわせた翻刻作業とデータ収集につとめた。なお、分類及びデータ収集の方法としては、海外の先行研究に倣い、音楽療法関連一次史料に含まれる内容を「日時」「場所」「目的」「演奏曲目」「終了直後の患者の様子」「患者の病名」「患者の性別」の項目別に入力した。 そのほか、明治期における公立精神病院ならびにそこで行われていた治療に関する成果発表の一端として、展示会「明石博高―京都近代化の先駆者―」(国際日本文化研究センター、神田外語大学、京都府立京都学・歴彩館)の企画・運営を担当し、図録と目録をを制作、発行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究に関わる史料収集においては、国内の調査に関してはおおむね当初の計画通り遂行することができている。ただし、コロナウイルス感染症の影響拡大を受け、国外調査に関しては次年度に遂行するよう予定を変更せざるを得なかった。 具体的には、研究開始から10月までの期間を割き、14冊の音楽療法実践記録書の記載内容を翻刻した。続く11月と12月には、それまでに翻刻した記録書の内容に基づき、同時代の各病院で行われた音楽療法に関連する史料を収集した。その上で、翌年の1月と2月でそれぞれの音楽療法実践内容の詳細を「日時」「場所」「目的」「演奏曲目」「終了直後の患者の様子」「患者の病名」「患者の性別」にそれぞれ分類してデータ入力し、各会の状況を窺い知ることのできるその他の資料があったものに関しては「実践時の様子」の内容も附し、データベースを構築した。さらに3月には、対象患者及び関係者の名前等の個人情報を完全に伏せた形で、特徴ある音楽療法実践内容を抜粋し、分析を試みた。 そのほか、近代日本音楽療法実践の萌芽が認められる京都癲狂院も調査の範囲として考察を深め、そこで明らかとなった治療の様子ならびに音楽療法の実体についても分析した。なお、本研究の成果発信のひとつとして、展示会「明石博高―京都近代化の先駆者―」(国際日本文化研究センター、神田外語大学、京都府立京都学・歴彩館)の企画・運営を担当し、図録と目録を令和3年度中に発行した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、史料収集がまだ終わっていない国内機関での調査、ならびに韓国と台湾での調査を行い、今年度と同様の手法でデータ収集を行う。 その上で、データベースを基に各大学の音楽療法実践内容を考察し、症例と演奏曲目との相関性、演奏曲目種別や対象患者の推移、音楽療法による効果等、多面的な個別分析から、それぞれの特徴を解明する。さらに、個別分析結果を基に、各大学での音楽療法実践内容の特徴を比較分析し、全体に通底する特徴を解明する。また、個別・比較的分析結果を総体的に鑑み、東京帝国大学で形成された音楽療法実践が、その後どのように発展していったのかその過程を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の影響拡大により、国外での調査を遂行できず繰り越すことになったため、次年度使用額が生じた。令和4年度では、複数回の国内外調査を実施するため、旅費等で支出予定である。
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