研究課題/領域番号 |
21K12918
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研究機関 | 尾道市立大学 |
研究代表者 |
吉田 宰 尾道市立大学, 芸術文化学部, 講師 (70878230)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 西村遠里 / 居行子 / 後藤梨春 / 鶴本平蔵(常春、望雲堂) / 版本書誌学 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に以下二つの研究を行った。 一つ目は、西村遠里『居行子』の流布に関する考察である。天文暦学者の西村遠里は『居行子』『同後編』『同新話』『同外編』といった多くの随筆を執筆したが、これらの諸本に関する研究はなされていなかった。そこで、まずは『居行子』に着目し、考察を進めた。その結果、『居行子』の版種は少なくとも7つに分けられ、その中には一部覆刻を施したものや改題本も存在することなどが明らかとなった。この成果については、「西村遠里『居行子』の流布に関する書誌学的考察」と題する口頭発表(洋学史学会若手部会6月例会、2021年6月5日、オンライン)を行った。 二つ目は、後藤梨春と書肆鶴本に関する考察である。本草学者の後藤梨春は本草学書や蘭学の知識を取り入れた著作だけでなく、『都老子』や『竜宮船』といった戯作も著した。しかし、従来の研究では彼の文筆活動の実態について詳らかではなかった。そこで、梨春作の出版物に着目し、書肆との関わりから考察を深めた。その結果、宝暦期までを中心に江戸の書肆である鶴本平蔵(常春、望雲堂)が梨春作の出版物に多く携わり、また書肆鶴本は梨春名義で他作者の著作物を改めて出版し、売り広めようとしていたことが明らかとなった。さらに梨春の著作には書肆鶴本の意向が少なからず反映しており、とくに『竜宮船』に見られる梨春の編集態度には、類版問題への懸念と対策という、書肆鶴本からの要請が影響していた可能性のあることが判明した。この成果については、「後藤梨春と書肆鶴本の出版戦略」と題する口頭発表(第13回おのみち文学三昧、2021年12月11日、オンライン)を行った。 なお、新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定していた古典籍の実地調査は行えていない。代わりに、インターネット上で公開されている画像や報告者所蔵の古典籍等を用いて、可能な範囲で上述の研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定していた古典籍の実地調査を行えなかったため。ただし、既述したように可能な範囲での研究を進め、それらの成果についても口頭発表を2件行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初1年目に予定していた古典籍の実地調査(とくに『居行子』の網羅的調査)をまず行う。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響により、計画通りに進まない場合も考えられる。その際は、『居行子』に続く『同後編』『同新話』『同外編』の翻刻作業を優先的に進めたい(報告者によって『居行子』はすでに翻刻・資料紹介済み)。また既述した2件の口頭発表の内容を論文としてまとめる予定である。さらに、後藤梨春や平賀源内らと同じ文化圏にいた杉田玄白についても、彼の随筆類を中心に考察を深めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定していた古典籍の実地調査を行えず、また学会発表や参加にかかる経費がオンライン開催となったことにより不要となった。その結果、旅費項目における未使用金が生じた。また、調査先での複写・印刷依頼などにかかる経費も使用できていないため、その他の項目における未使用金も発生した。 次年度では古典籍の実地調査を行える状況か否かを考慮しつつ、未使用分および翌年度分として請求した助成金を用いて、実地調査を中心に研究を遂行する予定である。また可能な限り、対面での学会発表や参加を行っていく。
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