近世(江戸時代)後期の女性文学者・日尾邦子についての研究である。 邦子は優れた歌人(和歌作者)であるが、漢学者・日尾荊山の妻として漢学の素養を持っていたと考えられ、紀行文や随筆を執筆した和文作者でもあった。邦子について、「①伝記および学問体系を示す」「②未翻刻の作品について翻刻と内容を把握する」「③邦子の和文の特徴、執筆手法を明らかにする」、以上三点を目的として研究を進めた。方法としては、『江の島紀行』(紀行)『花月園謾筆』(随筆)を中心に翻刻と内容の分析を行った。 日尾邦子の旅日記『江島鎌倉紀行』は、日本女子大学本『江島鎌倉紀行』を翻刻して用いた。本書は邦子自筆資料である。邦子が自ら述べる通り、『鎌倉志』の影響が大きく、取り上げられている名所旧跡については『鎌倉志』を参考にしているものが多数ある。そのほか、邦子の紀行文の特徴として、自作の和歌(贈答歌を含む)が見られ、特に荊山が漢詩を吟じたのに応じて詠んだと思しき和歌があり、邦子の詠歌能力と共に、漢学への素養をうかがわせるものとして重要である。以上の内容について、「日尾邦子江島鎌倉紀行」と題して論文を執筆し発表した。(『国文目白』第六十一号、二〇二二年二月) 『花月園漫筆』の「花月園」とは邦子の歌人としての名前(号)で、本作品は邦子自筆の作品である。邦子が参加した歌合における歌の記録や、面会した人達と詠み合った和歌の記録がある。だが、和歌の記録は本作品の中心ではなく、歌人や歌語、和歌について知っていることや考えたことをまとめた「随筆」であるといえる。邦子の興味の範囲は、詠歌そのものよりも「歌語」に及んでおり、本書は歌学書的な要素を持つことが明らかとなった。以上の内容は、「日尾邦子『花月園漫筆』考」と題して論文化して発表した。(『国文目白』第六十三号、二〇二四年二月)
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