研究実績の概要 |
当初の研究計画で示した通り、本研究の主要な目的は、捕虜を描いた日本文学を調べ、時期別にリスト化することである。そして捕虜を扱った文学作品群は、捕虜問題を重視した東京裁判やBC級裁判といった戦争裁判を描いた作品群と重なる。具体的に2023年度の実績としてまず挙げたいのは、戦争裁判を取り扱った作品のリストを末尾に付した単著、金ヨンロン『文学が裁く戦争――東京裁判から現代へ』(岩波書店、2023年11月)を刊行したことである。そのなかで、捕虜問題が時代別にどのように認識され、語られてきたのかということを大まかに素描することができた。また、岩波新書という形でより多くの読者に積極的に研究成果を伝えることができた。 また、カナダのUBCで研究調査を行い、捕虜に関連する資料(手記や文学作品)を調べると同時に、研究発表を通してその成果を発信した(Younglong Kim, Akito Sakasai, Pau Pitarch Fernandez (Moderator, Christina Yi)「Panel 5: Global Japanese Studies in Japan」(『Rethinking Global Japanese Studies Symposium』2024年3月11日、UBC)。 他にも、レイシズムの問題とかかわるような研究業績として、映画評(金ヨンロン「映画『福田村事件』と〈誤認説〉」(特集 関東大震災一〇〇年と文学 映画『福田村事件』批評集)(『社会文学』59号、91-94頁、2024年3月))を挙げることができる。また、連続座談会を通して、本研究のより大きな文脈化を行った。その成果の一部は、宇田川幸大、内海愛子、金ヨンロン、芝健介「連続討議 戦争責任・戦後責任論の課題と可能性(上) 」(『思想』1199号、125-142頁、2024年3月)に掲載されている。
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