本年度は主に江戸期の玉藻前説話の集大成とも言える読本『画本玉藻譚』と『絵本三国妖婦伝』に見られる「同形二人」の趣向、およびこの二つの読本の前段階に位置する勧化物『勧化白狐通』について研究した。 ①「同形二人」についてである。『日本国語大辞典』では「同形」について、「形が同じであること。性質・様子などが同じであること」と解釈されている。申請者は「同形二人」を用いて「同じ姿で登場する二人」を意味する。『画本玉藻譚』と『絵本三国妖婦伝』では、祈祷によって陰陽師・安倍泰成に正体を暴露された玉藻前が、また那須野に逃げ込んで民衆を悩ます。その際、領主の妻と同じ姿の女性に変じるが、真偽を見分けられない領主がやがて上京して照魔鏡を以て退治する。申請者は、何故同一の姿に化するこの内容が二つの読本に盛り込まれたかについて、作品およびその前段階の狐譚を分析すると同時に、当時の民衆文芸にも注目しつつ考察した。 結論から言うと、『勧化白狐通』や『泉州信田白狐伝』のような前段階の狐譚には、「同形二人」の趣向が見られ、前述の二つの読本はそれを踏まえていると考えている。また、享保初期前後の近松門左衛門の浄瑠璃『双生隅田川』や『弘徽殿鵜羽産家』などのように、演芸の分野でも同形の人間に化する「双面」の趣向が見出せる。「双面」の趣向を吸収し、「同形二人」を作中に織り込んだとも考えている。 ②『勧化白狐通』についてである。昨年度研究した『勧化白狐通』の成果をまとめ、学会で発表した。その後、さらに著者・海誉の出自について研究を進めた。
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