研究課題/領域番号 |
21K12964
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
児玉 麻美 大阪公立大学, 国際基幹教育機構, 准教授 (10757628)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ文学 |
研究実績の概要 |
グラッベの後期作品における自然表象と時代背景との関わりをより多角的な視点から考察するため、2022年度は劇作品以外の雑誌記事や書簡の精読を中心に、とりわけ「悲喜劇性」の要素に着目しながら研究を進めた。 グラッベ作品に含まれる悲喜劇性についてはすでにポルマンやブーデらが検証を試みており、これらの研究はグラッベ作品に含まれる喜劇的要素を、従来の悲劇の枠組みに対して破壊的に作用する力として解釈してきた。ロセッリによる研究はこれらを踏まえながら、初期の悲劇作品『テオドーア・フォン・ゴートラント公』(1822年)における気象現象と「笑い」の関わりを取り上げ、これが運命の空疎さ、世界の空虚さを際立たせるものであることを指摘した上で、グラッベの劇形式を「悲喜劇」ではなく「悲劇のパロディー」であると結論づけている。 しかし、グラッベの試みは悲劇の解体および再構築のみではなく、喜劇的なもの、すなわち粗野さや低劣さ、道化的な身振りといった諸要素に備わる価値転覆的なエネルギーを認めることをも視野に入れていたように思われる。 2022年度の研究においては、先行研究においてあまり注目されてこなかった劇評テクストを手がかりに、悲喜劇的なものの導入によってグラッベが演劇にどのような改良を施そうと試みたのかを考察し、論文「グラッベの演劇理論における悲喜劇的要素について」を執筆した。当該論文で扱う内容は19世紀のシェイクスピア受容やヨーロッパにおける詩学の展開ともかかわるテーマであるため、扱う文献の数を増やして内容をさらに深めた上で、2023年度に雑誌論文として公開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初よりも文献の収集が進んできており、研究計画はおおむね予定通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はグラッベ作品における自然表象への考察から出発したが、そうしたモチーフと三月前期の諸傾向(内的分裂、ビーダーマイアー、ロマン主義)との関わりを検証するなかで、「内的分裂」と「悲喜劇性」の両要素が深く結びついているという気づきへと至った。 近年のツィプフェルによる包括的な悲喜劇研究は、ドイツ語圏文学において悲喜劇というジャンルが軽視されてきたことを問題として指摘しながら、具体的な作品の例としてJ. M. R. レンツの『家庭教師』『軍人たち』、クライストの『アムフィトリュオン』、ヘッベルの『シチリアの悲劇』を挙げているが、「まじめさとおかしさの両立」というテーマに取り組んだグラッベのテクストについては、こうした悲喜劇史研究でまだ十分に考察がなされていない。本研究においては、18世紀後半から三月前期にかけてのさまざまな悲喜劇とも比較を行いながら、グラッベの作品がこれらの流れにおいてどのように位置付けられうるかについても再考を加え、論文および口頭発表の形で成果として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度から2023年度の間に所属研究機関を移ることになったため、移動先の研究機関で使用できる文献を一度調べた上で、2023年度に不足分の基礎文献(全集等)を新たに買い揃える予定である。
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