【最終年度】〔口頭発表〕「ユーモラスな二重悲劇──歴史劇『ハンニバル』とグラッベの演劇論について」、阪神ドイツ文学会 第241回研究発表会、2023年7月16日。概要:劇的な状況が虚構性や劇場性の中に包み込まれる瞬間に生じる笑いは、観客に観察と判断の猶予を与え、より深く根本的な理解を促す効果をあげている。真剣さと滑稽さの二重性をユーモラスな愉快さをもって描き、かつそれによって悲哀の瞬間を際立たせるという両極的な作用を実現している点において、『ハンニバル』はきわめて先駆的な試みを行ったテクストとして評価できる。 〔口頭発表〕「理想の劇場の創出を目指して──グラッベの作品における喜劇的要素について」、日本独文学会2023年秋季研究発表会、2023年10月14日。概要:劇評集の中で同時代の演劇文化への批評を試みたグラッベは、喜劇/悲劇といった従来のジャンル区分を超越したところで観客に舞台上の出来事を注視させ、客観的な判断を促すための仕掛けが必要であるという考えに至る。彼が歴史劇における諧謔やイロニーを重視したことの背景には、演劇というメディアそのものの作為性に対する自己批判の狙いがあったと考えられる。 【研究期間全体】本研究課題は「グラッベ作品における自然表象のもつ狙いと効果を明らかにする」という点から出発したが、時代を経るごとに〈ドイツ的風景〉は愛国的表象としての意味を喪失させられ、次第に諧謔やイロニーが重要な地位を占めるようになる。国土や政治形態のみならず、文化や芸術領域においても〈個別化〉の傾向が顕著になりつつあった1830年代の時代潮流に危惧を抱いたグラッベは、この状況を批判的に眺めつつ〈全体的なもの〉を取り戻そうとする試みとして、『ハンニバル』や『ヘルマンの戦い』といった歴史劇に悲喜劇の装いを施し、彼独自のやり方で観客の啓蒙を試みていたことが明らかになった。
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