研究課題/領域番号 |
21K12965
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
吹田 映子 自治医科大学, 医学部, 講師 (10738925)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | フランス・マゼレール / ピエール・ポーリュス |
研究実績の概要 |
2023年度は主に、前年度に引き続き版画家フランス・マゼレールの作品および活動に焦点を当て調査を行った。11月には、それまでの文献調査によって得られた知見をまとめ、エッセイの形で発表した。そこで明らかにしたのは、マゼレールの生涯が二度の世界大戦によって強く条件づけられていたこと、また、彼の作品および活動が依拠するところの社会主義的立場は継父からの薫陶に由来するとともに、スイスへの移住を機に知り合ったロマン・ロランやシュテファン・ツヴァイクらとの交流を通じて強固になったということである。1月には、本研究に着手して以来初めてベルギーに渡航し、ブリュッセルを始めとする各地で調査を行った。北部フラーンデレンの諸都市では、この地域出身のマゼレールについて、彼の作風に影響を与えた子弟関係にも注目しながら調査を行った。他方、南部ワロニーの諸都市では、対象となる作家を事前に特定せず、この地域出身の芸術家たちが生み出した作品を調査した。結果として、日本でもすでに名を知られている画家・彫刻家のコンスタンタン・ムーニエのみならず、画家のピエール・ポーリュスらもまた、19世紀末の当地域を特徴づける炭鉱労働を多く主題に選んで制作していたことがわかった。また、彼らに共通する社会主義的な視点は、フランスの画家ギュスターヴ・クールベの視点に連なるものであり、クールベによるレアリスムの作品が19世紀半ばにベルギーに紹介されて生じた大きな反響の一部として理解できることがわかった。帰国後(1月)、マゼレールについてのそれまでの調査結果を総合し、「版画家フランス・マゼレールをとおして見るベルギー ―漫画、多言語、越境性―」と題して口頭発表を行った。3月には再びベルギーに渡航してブリュッセルで追加の調査を行うとともに、「フランス・マゼレールの作品と生涯」と題して口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症に伴う行動制限により、本研究において当初予定していた現地調査を三年近く実現することができなかった。本年度(2023年度)にようやく実施することができたが、本来であれば一年目(2021年度)に実施すべき調査であるため、ようやく本研究の見通しが立ち、少しずつ成果を出せるようになってきた状況であるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、主に東アジアでのマゼレールの作品受容の状況を歴史的に考察することを通して、本研究の射程の広さを示したい。そこで鍵となるのは中国の作家魯迅だが、彼および彼の周辺の手によって刊行されたマゼレールの版画集について、また、それらをめぐる周辺状況について調査する。これについては、中国語および中国文学に詳しい研究者に、翻訳作業等で協力を依頼する予定である。同時に、これまでの調査で明らかになったマゼレールの全体像を踏まえ、彼の版画集を日本で初めて出版することを、成果発表の目標の一つとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度は円安ユーロ高が進む状況にあったため、現地調査にかかる費用が高騰すると見込んでいた。それに合わせ、データ入力にかかる人件費が少なくなるよう調整していたが、結果として人件費を低く抑え過ぎることになった。この繰越金に関しては、次年度も引き続き依頼する予定のデータ入力にかかる人件費に充てるつもりである。
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