研究課題/領域番号 |
21K12966
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
齋藤 山人 日本大学, 芸術学部, 講師 (60850534)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 新語法 / 言語 / 野蛮 / 自己表象 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、日本で取り寄せられる『ジャン=ジャック・ルソー書簡全集』を可能な限り入手し、読解する作業を行った。特に1770年代の書簡を中心に分析しつつ、晩年から死後において、ルソーが世論を通してどのような人物像を付与されているのかを分析した。具体的には、ルイ=セバスチャン・メルシエの『新語集』や『タブロー・ド・パリ』を含むいくつかの著作を参照しつつ、ルソーの思想が18世紀末から19世紀初頭において、どのように受容されたのかを考察した。特に、メルシエの『新語集』は、ルソーの特異な言語使用と、それが19世紀以降のフランス文学に与えた影響を考える上で、重要な資料である。この『新語集』におけるルソー主義の射程について分析した学術論文を執筆して、日本大学芸術学部の『芸術研究所紀要』2022年号に掲載した。また、2022年12月3日に信州大学で行われた、啓蒙思想の主知主義を問い直すシンポジウム「アンシャン・レジームから近代へ、そしてその先へ-文学と哲学-」では、第4部の司会を担当した。さらに、2023年3月には、欧米言語文化学会の第144回例会の中でシンポジウム「近現代フランス文学における〈家族〉と〈性差〉の表象」を開催した。この機会に、立教大学教育講師・黒木秀房氏と、大阪大学講師・篠原学氏とともに登壇し、発表「クララン共同体における家政の表象と性差のキアスム」という題名で発表を行った。同時に、このシンポジウム全体の司会も担当した。著書(共著)としては、丸善書店から2023年1月に刊行された『啓蒙思想の百科事典』の、項目「サロン」を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、2022年の夏季にヨーロッパに渡航して、ジュネーヴ図書館やヌーシャテル図書館、さらにフランス国立図書館で文献調査を行う予定であった。同時に、在欧の18世紀フランス研究者とコンタクトをとって、共同研究ならびにシンポジウムの打ち合わせも行う予定であった。また、日本国内においても、以前まで定期的に行っていたルソー研究会を再開させて、国内の研究者と活発に情報交換を行う予定であった。しかし、令和4年度中にコロナ感染症の拡大が十分に終息しなかったため、自宅や大学研究室で遂行することのできる研究作業に専心した。本来であれば、渡欧して収集する予定であった資料(ルソーと同時代人との論争に関係する最新の研究文献)が十分に入手できなかったため、その分、研究作業が遅滞していると言える。さらに、当初は予定していなかった、近現代フランス文学における「家と性差」の問題を分析する共同研究に参加することになったため、課題に関する研究作業の時間も短縮された。しかし、その反面、予期せぬ方面で研究が発展した部分もある。本来は課題の中で大きな比重を占めていなかった『新エロイーズ』の家政表象を集中的に考察したことによって、「性差」の問題がルソーの論争的著作において持っている重要性について注目する機会となった。また、欧米言語文化学会でシンポジウムを行ったことによって、フランスの他世紀の研究者だけでなく、英米文学の研究者とも情報交換を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの二年間は、主にルソーの言語に対する意識を分析することによって、彼が自らの文体や言語観を、いかに彼自身の自己像に投影させたのかという問題について取り組んできた。具体的には、ルソーが特徴的に用いた「地方語」や「新語法」、さらにそれと関連する、言語の「エネルギー」の議論を考察することによって、彼が近代以降の作家像、知識人像にもたらした寄与を探るための足がかりとした。その際には、邦訳に携わったアントワーヌ・リルティ『セレブの誕生-「著名人」の出現と近代社会』やジャン=クロード・ボネ『パンテオンの誕生-偉人信仰についての試論』における議論を参考にしつつ、それを補足・発展させることを目指してきた。 今後は、ルソーの自伝的著作(『告白』、『対話-ルソー、ジャン=ジャックを裁く』、『孤独な散歩者の夢想』など)集中的に読解・分析することによって、彼が読者に向けて自己像を形成する際に、どのような言語実践を展開しているのかをミクロレクチュール的な手法で考察するつもりである。また、自伝的著作の内容と、書簡の記述とを対照することによって、彼の自己言表の戦略がどのように機能しているのかを、複層的に分析する。近年の研究成果の中でも、クラシック・ガルニエ版の『ルソー全集』第18巻に収録された、ジャン=フランソワ・ペラン校訂版の『対話』は、ルソーの自伝的著作に関する研究として、無視できない成果であり、令和5年度は、この校訂版を批判的に分析する予定である。この作業によって、近年主流となりつつある哲学・思想史的解釈と、ミクロレクチュール的な読解をどのように和解させるべきかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、2022年の夏季にヨーロッパに渡航して、ジュネーヴ図書館やヌーシャテル図書館、さらにフランス国立図書館で文献調査を行う予定であった。同時に、在欧の18世紀フランス研究者とコンタクトをとって、共同研究ならびにシンポジウムの打ち合わせも行う予定であった。また、日本国内においても、以前まで定期的に行っていたルソー研究会を再開させて、国内の研究者と活発に情報交換を行う予定であった。しかし、令和4年度中にコロナ感染症の拡大が十分に終息しなかったため、自宅や大学研究室で遂行することのできる研究作業に専心した。以上が、次年度使用額が生じた理由である。令和5年度は、令和4年度に実現できなかった、スイス・フランスにおける研究調査を実施して、渡航費や、現地における図書館使用料、資料収集費用、書籍購入費にあてる予定である。
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