研究課題/領域番号 |
21K12970
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 斉 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (60773851)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イソップ / 古典受容 / 西洋古典 / 比較文学 / 翻訳 |
研究実績の概要 |
現存する古代のイソップ集のひとつとして、紀元1世紀にファエドルスによって編集されたと考えられる、ラテン語韻文による5巻本のイソップ集(ファエドルス集)がある。 ファエドルス集は、最初の印刷本が1596年に刊行され(現在は画像データが電子公開されている)、その後複数の印刷本が刊行されている。ファエドルス集では、全体を含むと思しき9世紀頃の写本が二つ認められているが、そのうち一つは1774年に焼失し、現存しない。焼失した写本については、焼失までにファエドルス集刊行などのために参照されており、ある程度の記録は残る。なお、ファエドルス集由来の話を含む写本も幾つか認められるが、いわゆる抄録であり、他のイソップ集由来の話と混在して構成されている。 ファエドルス集は、現存する写本ではなぜか4巻本として筆写されており、一方、焼失した写本では古代の伝承どおりに5巻本とされていた。両者同じ話を同じ配列で含むが、話の配列そのものに疑義が残り、2020年に刊行された最新の校訂本では、大胆な提案がなされている。令和3年度は、この提案を足がかりに、近世のイソップ集や古典研究の広がりも含めて、改めてファエドルス集の在り方について考察を進めた。年度中に成果の公刊にはいたらなかったが、次年度にはひとつの論稿として発表すべく取り組んでいる。 また、デジタル化に関わる方面では、2021年7月に刊行された人文情報学の概説書で、西洋古典に関係する2章を担当した(『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識』所収「Perseus Digital Library:人文情報学の先駆的図書館」および「The digital Loeb Classical Library:西洋の古典文学叢書の電子版」)。さらに、2022年3月には、高校生にイソップ研究について講義する機会をもち、研究成果の一般向け紹介にも努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、本研究課題に関わる題材として、ファエドルス集に注目するに至った。現存する数少ない古代のイソップ集のひとつであるが、最初の印刷本は意外と刊行時期が遅く、写本伝承の状況の特異性、当時の古典研究の有り様、印刷本の広がり、「イソップ集」としての在り方、他の「イソップ集」との関わり等、非常に興味深い要素を複合的に持つ題材であることに改めて気付くことができた。ファエドルス集はラテン語系イソップ集の起点と呼びうる存在であり、本研究課題の最終的な目標とも関わることが予想される点でも重要である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、近世・近代におけるファエドルス集の在り方に注目しながら、とくに16世紀のイソップ集の状況について検討を進めることにしたい。そのうえで、研究課題の進展に向けて、『エソポのハブラス』につながる手がかりを得られないか探っていく。関連テクストの電子化についても、近世のファエドルス集周辺を中心に行い、電子公開を急ぐ予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究環境の移動が決定したのち、予定していた備品の一部の購入を控えた。改めて発注し、購入する。 また、現況により旅費の使用が減った。令和4年度は、可能であれば、実地で調査を行う。
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備考 |
現在、ウェブサイトを構築中である。
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