研究課題/領域番号 |
21K12973
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
紺野 達也 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00506157)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 蔡大鼎 / 琉球漢詩 / 琉球 / 久米村 |
研究実績の概要 |
本研究では、近世末期の琉球の久米村の士族であり、また琉球の漢文学史上、重要な地位を占める蔡大鼎の『欽思堂詩文集』三巻に収録された青壮年期の大量の漢詩文を総合的に研究する。2021年度は、彼の生活に着目した。『欽思堂詩文集』には、青壮年期の蔡大鼎の日常を記した作品が収録されており、それらを分析することで、行動の範囲、生活や住居の環境、家族の情況、士族を取り巻く社会情勢などを明らかにすることができた。 まず、蔡大鼎の行動の範囲は久米村に限定されず、首里や那覇、さらには郊外にまで広がることを示した。そして、蔡大鼎がそれらを漢詩文として詠じるにあたり、多くの中国古典詩文や史書などを典故にしていることが明らかとなった。これらの成果は2022年度に予定している蔡大鼎ならびに琉球王国最末期の士族の教養を考えるにあたっての基礎となると考えられる。 生活や住居の環境、家族の情況については、蔡大鼎が自身のことを述べる際にしばしば言及される。それらの記述を丹念に収集することで、これまでの歴史学ではあまり言及されなかった久米村士族の日常を確認することができた。 蔡大鼎の交流については、久米村の士族のみならず、首里の士族などにも及んでいること、そしてその交流の諸相を具体的に考察した。一方で士族以外との交流は遊郭の遊女などを除いてあまり見られないことも確認された。また「送別詩」などを中心に、蔡大鼎と士族などとの交流に当時の琉球の士族を取り巻く社会情勢が描かれていることを示しつつ、歴史資料などとの比較を通して、その分析を行った。 このほか、関連研究として、『欽思堂詩文集』とともに刊行された『漏刻楼集』との比較を通じて、『欽思堂詩文集』所収の作品の特徴を確認している。また琉球に大きな影響を及ぼした清朝における唐詩理解の実態についても考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究のうち、資料を用いた分析については順調に進んでいる。ただし、新型コロナウィルスの流行が充分に収束しないため、沖縄県(沖縄本島)における新たな関連資料の調査ができなかった。また、それに伴って論文発表も遅れており、2021年度中の刊行ができなかったため、「やや遅れている」と判断するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、当初の予定通り、蔡大鼎『欽思堂詩文集』をもとに近世琉球士族、特に青壮年期の教養・交流の様相は何であるのか、そして文学としてどのように表現されているのかを実証的に明らかにする予定である。特に2022年度は、『欽思堂詩文集』所収の作品に表現されている教養について、考察する予定である。これらの教養は、蔡大鼎が琉球国内における読書・学業によって知や家族内、集団内、地域内の伝統を基盤にして培われたものである。その内実および水準、限界を明らかにし、近世琉球士族の有していた教養がいかなるものであったかを詳細に、かつ実証的に考察する予定である。 なお、2021年度に実施できなかった沖縄県(沖縄本島)に赴いての新たな関連資料の調査も行うことで、2021年度の不備を補うことも計画している。ただし、これについては新型コロナウィルスの流行情況に左右されることが課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
諸費用の節減に伴い、若干の余剰金が出たため。これについては令和4年度の物品(消耗品)の購入に充当する。
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