研究課題/領域番号 |
21K12979
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
陳 奕廷 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40781224)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 関連事象 / 結果構文 / 複合動詞 / 移動表現 / 動詞類型 / プロファイル / 意図性 / 予見可能性 |
研究実績の概要 |
令和3年度では、超大規模な「国語研日本語ウェブコーパス」を用いることで、ある事象によって引き起こされうる結果事象を収集し、細分類することで「粒度の細かい関連事象」が利用できることを示した。日本語の「飲む」と英語のdrinkを含む結果構文を対象に比較した結果、複合動詞のような語彙的な使役においては「決定的使役の条件」が強い制限として働いていることを改めて示した。また、英語の形容詞句の結果構文がプロセス性の低い変化を表すのに対し、前置詞句の結果構文は基本的に境界がはっきりしている全体的な変化しか表せない、という違いがあることがわかった。さらに、日本語では従来論じられていない予見可能性という要因が構文の成立可能性を決める重要な基準であるのに対し、英語は対象の変化において意図性が基準になっていることが明らかになった。この成果を国立国語研究所のフレーム意味論プロジェクト公開研究会で発表し、論文集『フレーム意味論の貢献:動詞とその周辺』の「動詞の関連事象に基づく言語分析―「飲む」とdrinkから見る日本語と英語の結果構文―」というチャプターで発表した。 また、同コーパスのデータをもとに、日本語における主体移動動詞をV2にもつ「見に行く」のような「V1にV2」、及び「見るために行く」のような「V1ためにV2」という2つの「目的を伴う主体移動表現」について検討した。動詞の意味に従来注目されていない「負荷特性」という示差的な特性の情報を取り入れることで、目的を「負荷目的」、「移動目的」、「行先目的」に細分化し、それによって移動事象を3段階に分けることができる。その上で、動詞がどの段階をプロファイルするかに基づく、新たな動詞類型を提示し、複合動詞「V-疲れる」や重複構文「VにV」、複雑述語「Vていく」などの言語現象の説明にも適用できることを示した。この成果を日本言語学会第163回大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画ではa. 広い意味の結果構文の類型論的研究(結果の細分化・関連事象のモデル化)、b. 目的を伴う移動表現の類型論的研究(目的の細分化)、c. 付帯事象型の複合動詞と複合動名詞の網羅的研究(関連事象の可視化)という3つの研究を行う予定であったが、既にaとbを学会等で発表し、aは論文集のチャプターとして刊行され、bも国際ジャーナルに投稿準備中である。cに関しても令和4年度で発表が予定されており、国際ジャーナルにも投稿の準備を進めているところである。また、ほかの関連事象アプローチの派生研究も行う予定であり、当初の想定よりも大きな広がりを見せている。そのため、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では、複合動詞(例:「探し回る」)と複合動名詞+「する」(例:「立ち読みする」)という異なる形式の複雑述語に対し、「関連事象アプローチ」の観点から検討する。具体的には、「VとV」や「VためにV」などの表現を「国語研ウェブコーパス」で検索し、動詞の原因と目的という関連事象を収集する。それによって、複合動名詞+「する」は同時性だけで成立するが、 複合動詞は同時性だけでは成立せず、直接または間接の因果関係が必要であることを示す。さらに、概念的により緊密な事象(因果関係+同時性)は、そうでない事象(同時性のみ)よりも形式的に緊密な形で表現される傾向があり、頻度ではそれを説明できないことを示すことで、「類像性対頻度」の論争に重要な示唆を与える。この成果をまとめて国際ジャーナルに投稿する。 令和5年度では、今までの研究から派生した新たな展開について分析を深め、国際学会等で発表し、国際ジャーナルに投稿する。合わせて、関連事象アプローチに関する本の原稿の執筆を進め、国際的な出版社から刊行されることを目指す。 加えて、本研究は関連事象のデータベースを構築し、調査した動詞の関連事象の情報を随時データベースに還元する。最終的には無料で使用できるオンラインデータベースとして公開することで、言語研究の有力なツールとなる。さらに、ウェブプラットフォームのGitHubでもソースコードを公開することで、自動翻訳、対話型AIへの利用を可能にする。
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